シリコン電荷結合素子における素電荷操作

藤原 聡 高橋庸夫
先端デバイス研究部

 単電子トンネル素子は、超低消費電力素子としての観点から盛んに研究が行われている。電子1個の操作は、いわゆる単電子ポンプで実現できるが、多重トンネル接合が必要なため素子構造が複雑となり、作製が容易ではない。そのため、Siでは単電子転送操作は実現されていなかった。今回我々は、作製が容易でより高集積化に適した素子として、単電子電荷結合素子(CCD)を提案・作製し、温度25Kでの単正孔の転送操作に成功した[1]。単正孔の位置の検出には、Siナノ構造における電子正孔共存系を利用するという新たな手法を用いた。
 図1(a)に、素子の平面SEM像を示す。素子は、SOI基板上に作製された2個のSi細線MOSFET(ゲート長90nm)のアレイである。Si細線は、T字型形状をしており、それぞれの端子がn型の電極につながってる。このため、2個のMOSFETそれぞれを流れる電子電流を、別々に測定することが可能となる。図1(b)に、2個のMOSFET間での単正孔の転送とその電子電流による検出を模式的に示した。光照射により生成された正孔の保持と転送は、ポリSiゲートに負電圧を加えて正孔を引き寄せるという通常のCCD動作で行う。一方、単正孔の検出には、直径15-20nmのSi細線内に電界を加え、保持正孔とそれをセンスする電子電流を空間的に上下に分離する(図1(c))。電子電流は、すぐに正孔と再結合することなく、正孔の個数を反映した電流レベルで流れるため、正孔の個数(nh)を正確に知ることができる。図2に、MOSFET間での単正孔転送動作と、その検出動作を数回繰り返した実験結果を示す。電子電流が交互に高い値を示しており、同一の単正孔を転送操作できている。

[1] A. Fujiwara and Y. Takahashi, Nature 410 (2001) 560.

図1 (a) 素子の平面SEM像
(b) 単正孔転送とその検出の模式図
(c) Si細線の断面模式図
図2 単正孔の転送操作

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