無機レジストを使ったサブ10nm電子ビームリソグラフィ

山崎謙治 M. S. M. Saifullah* 山口 徹 生津英夫
先端デバイス研究部

 単電子デバイスを始めとする高機能デバイスを高温で動作させるためには、10nm以下のパターンを形成する必要がある。このような微細なパターンを形成するために、電子ビーム(EB)用高解像レジストとして、無機レジストがいろいろなグループで検討されてきた。しかし、EBに対する感度が著しく低く、高機能デバイスへ応用された例はない。
 我々は、この欠点を解決する高解像無機レジストを開発した[1]。このレジストは、βジケトンで化学修飾された金属アルコキシドからなるキレート化合物である。EB照射でジケトンを切断することにより、アルコキシドが自発的に架橋するため、ネガレジストとなる。EB照射で反応させる部分が無機成分ではなく、有機成分のジケトン部分であるため、従来の無機レジストの100倍以上の感度を有する。また、レジスト中には数nm以下の微細構造しかないため、nmオーダの微細パターンの形成が可能であり、小さいエッジラフネスが得られる。更に、ドライエッチングに対する耐性や選択性が、有機レジストに比べ高くなっている。 我々は、高性能EBリソグラフィシステムを用いて、このレジストを評価した。このシステムは、加速電圧100kVで高い安定性があり、例えば、ビーム位置のドリフトは2nm/10min以下、ステージ動作時の描画位置の誤差は500回のステージ動作前後で1-2nmが得られている [2]。
 図1は、このシステムで描画したレジストパターンのSEM像で、8nmの線幅が偏向フィールド中心で得られている。320μm角のフィールドの境界でも約10nm幅の細線を形成することができた。パターンの再現性やエッジラフネスは良く、フィールド内での線幅の違いはビーム径の広がりに対応している。これらの結果は、この無機レジストがEBによる蓄積エネルギーを正確に反映した、高精度なサブ10nmパターンを形成できることを実証している

[1] M. S. M. Saifullah et al., Jpn. J. Appl. Phys. 38 (1999) 7052.
[2] K. Yamazaki et al., Proc. SPIE. 3997 (2000) 458.

*現所属:Engineering Faculty, Cambridge Univ., U.K.

図1 8nm幅の無機レジスト細線パターンのSEM像。x,y方向とも再現性良く、またエッジラフネスの小さい細線が形成できている。

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