歪みを制御した半導体表面

尾身博雄 David Bottomley 荻野俊郎
先端デバイス研究部

 シリコン半導体技術の将来を展望しつつ、我々はウエハースケールで平坦なシリコン表面上で歪みを人工的に制御する手法を提案し、その有用性をナノ構造形成において初めて実証した。最近、自己組織的なナノ構造形成は光リソグラフィ法のサイズ限界の制約を受けない点で魅力的な技術として注目を集めている。しかし、シリコン基板上に自己組織化するゲルマニウムおよびシリコンゲルマニウムはナノスケールの構造を容易に形成できる利点はあるが、局所的な位置制御が困難であるという本質的な問題を抱えている。結果として、自己組織化をデバイス作製の基本プロセスとして用いるのは、現状の技術のままでは困難である。
 そこで我々は、ナノ構造形成の位置制御を実現するために、シリコンウエハー表面の歪み分布を制御する方法を確立した。すなわち、シリコンウエハー上に成長させたシリコン酸化膜の成長層を光リソグラフィ法で任意のパターンに加工してから、ウエハー表面に酸素イオン注入する。その後、その試料を1325℃でアニールし、化学エッチングで残された成長層をすべて除去する。このプロセスによりパターン領域のみにシリコン酸化物を埋め込むことができる。シリコン酸化物の体積はシリコンの約2倍に相当するので、埋め込まれたシリコン酸化物はシリコン基板内部に歪み場を誘起し、シリコン基板の表面では歪みの分布が現れる。この様にして形成した埋め込みシリコン酸化物は少なくとも1325℃まで安定なので、この歪み分布をもつ表面上でさらに作製プロセスを継続することができる。
 実際に、このようにして歪み分布を制御したSi(001)基板上に超高真空中でゲルマニウムを成長させることにより、位置とサイズが十分に制御された3次元島を自己組織化することができた(図1)。ゲルマニウムは2次元ぬれ層の上に欠陥のない3次元島を形成しながら成長し、この成長形態は系の表面エネルギーと歪みエネルギーの和を減少させることにより起こる。ゲルマニウムの島はライン状のイオン注入領域ではサイズが揃いしかも一列に(図1(a))、ホール状のイオン注入領域では円状に成長する(図1(b))。

図1700nm幅ライン状イオン注入領域上(a)、および2μm径ホール状イオン注入領域上(b)に成長したゲルマニウム島配列の原子間力顕微鏡像

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