有機金属ガス気相成長におけるInP表面超構造の観察

川村朋晃 渡辺義夫
先端デバイス研究部

 有機金属ガスを用いた半導体デバイス作製プロセスにおいて、その成長条件と表面構造の関係を把握することは良質な結晶成長を行う上で重要であるが、気相成長の場合RHEED、LEED等電子線を用いた手法を適用することが困難であり、また従来用いられてきたRDS(Reflectance Difference Spectroscopy)やSPA(Surface Photoabsorption)等の光学的手法では原子レベルの表面構造を直接明らかにすることは容易ではなかった。一方X線は透過能が高く真空中のみならずガス雰囲気中でも容易に適用することができるという利点がある。またX線の場合電子線と比較すると物質との相互作用が弱いため、高強度のX線源を必要とするという問題はあるが、測定データの定量的解析が容易となる。そこでX線回折計と結晶成長チャンバーを組み合わせたin situ X線回折計を作製し[1]、SPring8放射光施設においてMOCVD成長雰囲気におけるInP結晶の表面構造の解析を行った。
 InPはV族元素であるPの蒸気圧が高いことから通常のMBE法では良質な結晶成長が難しくその表面構造は明確ではなかった。そこでTMIおよびTBPを原料ガスとして用い、InP(001)基板上にホモエピタキシャル薄膜を作製し、水素雰囲気中で表面の超構造の測定を行った。図1に逆空間におけるBragg反射X線の強度分布を示す。図中の●は観測されたBragg反射点、○は基板結晶によるBragg反射により観測できなかった点、×はBragg反射が観測されなかった点を示す。また●の大きさは各反射点における相対的なX線強度を示す。図中より明らかにInP(001)の表面構造は(2×1)であることが分かる。この結果は従来のSTMの結果と異なっているが、STM測定の場合試料作製後真空中に移送して測定しているのに対し、本測定では結晶成長雰囲気で測定しているために違いが出ていることを示唆している。また(1/2 m), (3/2 m)格子点において一部のBragg反射が欠損しているがこれは図2に示すように[-110]方向に最表面のPダイマーのみならず二層目のIn原子の変位によって説明することができる。

[1] T. Kawamura et al., J. Cryst. Growth 221 (2000) 106.
[2] T. Kawamura et al., Appl. Phys. Lett. 77 (2000) 996.

図1逆空間におけるBragg反射強度分布
図2InP(001)表面における(2×1)構造モデル

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