神経活動のリアルタイム計測

河西奈保子 神保泰彦 鳥光慶一
機能物質科学研究部

 脳では、神経細胞を含めた様々な細胞が複雑に絡み合った回路を形成して活動しながら、大量の情報を効率良く伝達・蓄積・処理している。その複雑な活動を理解し活用してゆくためは、脳における二次元あるいは三次元の、高精度かつ高空間分解能な情報をリアルタイムに得る必要がある。しかし、現在、そのような情報を得る手段はごく限られている。当グループでは、アレイ型電極を用いた複数の神経細胞の電気活動の同時計測、神経細胞内の特定のイオンの分布のイメージング等により、単一あるいは複数の神経細胞における活動状態を画像化する試みを進めている。
 また細胞間の情報伝達を担う神経伝達物質も、記憶の機構の解明等のために非常に関心を集めている。しかし、これまで神経伝達物質の受容体の分布は計測されているものの、神経伝達物質そのものの分布を測定する手段はなく、受容体の活動レベルや動的変化に関する知見は全くなかった。我々は、大脳皮質、特に海馬における代表的な興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸に着目し、海馬における分布をリアルタイムに計測し、その挙動を可視化することを目標にして研究を続けている。
 本研究では、アレイ型の電気化学グルタミン酸センサを作製し、刺激によりラット海馬から放出されるグルタミン酸のリアルタイム多点計測に成功した[1]。グルタミン酸センサは、グルタミン酸酸化酵素と電子移動メディエータ、ペルオキシダーゼをアレイ型電極(各サイズ50×50μm2)上に修飾して作製した。その上にラットの海馬切片を固定し、アレイ中の複数のセンサにおけるグルタミン酸濃度を計測したところ、薬物刺激により受容体の活性化に起因するグルタミン酸の濃度上昇が認められた(図1)。このことは、受容体の分布や活動レベルが海馬内の領域によって異なることを示している。この結果から、本手法はグルタミン酸のリアルタイム分布計測に有効な手段であることが分かった。今後は分布の画像化を進める予定である。

[1] N. Kasai et al., Neurosci. Lett. 304 (2001) 112.

図1海馬切片の各位置におけるグルタミン酸濃度の経時変化

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