電子ドープ高温超伝導体の分子線エピタキシー合成

狩元慎一 内藤方夫
機能物質科学研究部

 電子ドープ高温超伝導体は、ホールドープ高温超伝導体に比べ、発見されている物質群が極端に少なく、得られている超伝導臨界温度(T C)もホール系での135Kに対し、40K程度と低い。なぜT Cが低いのか?ホールドープ高温超伝導体と超伝導発現機構は違うのか?といった基本的な問題を明らかにする上で、電子ドープ高温超伝導体の高品質単結晶薄膜の作製及び新材料探索は重要である。分子線エピタキシー法(MBE法)は、低温合成やエピタキシー効果によりバルク合成では不可能な非平衡相の合成を可能にする。本手法を用いて、バルク合成では困難な、以下2種類の電子ドープ高温超伝導体の高品質単結晶薄膜合成に成功した[1,2]。以下に、それぞれの物質の特徴と意義を述べる。

(1) (Sr, La)CuO2 (T C 〜40K)
 高温超伝導体の中で最も単純な構造(超伝導を担うCuO2面と(Sr, La)が交互に積層した構造:無限層構造、図1(a))を持つために、超伝導発現機構を研究するには格好の物質である。しかしながら、高温・高圧相(1000℃、5万気圧)であるために、通常の常圧合成では合成できない。したがって、単結晶はできておらず、基本的な物性すら調べられていない。本研究では、特殊な基板(KTaO3)を用いたエピタキシー効果により高品質単結晶薄膜の合成に成功した。図1(b)に今回得られた薄膜の電気抵抗率−温度特性を示す。高圧合成バルク多結晶試料に比べ、金属的な特性と3桁低い電気抵抗率が得られた。

(2) T' -(La, Ce)2CuO4 (T C 〜30K)
 電子ドープ系として最初に発見されたT'構造を持つ高温超伝導体は、化学式(Ln, Ce) 2CuO4で表される一群の物質群である。通常のバルク合成では、希土類元素(Ln)として、Pr, Nd, Sm, Eu, Gdが取られ、T Cの最高値は(Pr, Ce)2CuO4と(Nd, Ce)2CuO4の25Kである。一方、MBE法では合成温度を〜600℃程度まで低温化できるために、Ln=LaとしたT'-(La, Ce)2CuO4の単結晶薄膜の作製が可能となる。T Cは、この物質群中最高の30Kを示し、かつ、一群の物質のT Cから「希土類のイオン半径が大きいほど、T Cが高い」と明瞭な傾向を見ることができる。本傾向は、高T C材料開発の1つの指針を与える。

[1] S. Karimoto et al., submitted to Appl. Phys. Lett.
[2] M. Naito and M. Hepp, Jpn. J. Appl. Phys. 39 (2000) L485.

図1(a) 無限層構造と (b) (Sr, La)CuO2薄膜の電気抵抗率−温度特性

【もどる】