窒化アルミニウムからの高効率フィールドエミッション

嘉数 誠 小林直樹
量子物性研究部

 窒化アルミニウム(AlN)半導体は、負の電子親和力を有することが報告されている。このため、AlNはフィールドエミッションに大変有利であると予想される。フィールドエミッションが実現すると、テレビ画面の動画性、色彩の美しさを保ちつつ、薄型、省電力の特徴をもつフィールドエミッションディスプレイや高周波増幅に有望な微細真空管素子が実現する。これまでのAlNはアンドープである上、結晶品質が十分でなかったため、電流密度はダイヤモンド等に及ばなかった。
 我々は、AlN結晶と面内(a軸)で格子整合し、熱膨張率が等しいシリコンカーバイド(SiC)を基板として選び、さらに1100℃という高温でMOVPE成長することにより、(0002)X線ロッキングカーブ半値幅で100秒を切る最高品質のAlN結晶を得ることができた。また、AlN中のSiドーピング濃度を増加すると、フィールドエミッションに必要な電界強度が減少することを見出した(図1)。そのメカニズムを図2で説明する。第一の理由は、ドーピングしたSiが電子の供給源になり、さらにバルクから表面に電子が伝導するための経路になることである。第二の理由はSi濃度の増加に従い、ナノメートルスケールで先端が鋭く尖ったリッジ(畝)構造が自然形成され(口絵参照)、フィールドエミッションに必要なエネルギー障壁が約2 eV低下することである。最大のフィールドエミッション電流密度は、ダイヤモンドの約2倍の66 mA/cm2に達した。またフィールドエミッションディスプレイの基礎実験を行い、フィールドエミッションで放出された電子で蛍光体を励起し、三原色の発光を観察した(口絵参照)。その輝度は1200cd/m2で実用レベルにある。

[1] M. Kasu and N. Kobayashi, Appl. Phys. Lett. 76 (2000) 2910.
[2] M. Kasu and N. Kobayashi, Appl. Phys. Lett. 78 (2001) 1835.


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