ナノ構造配列ターゲットによるフェムト秒レーザプラズマX線の高効率発生

西川 正 中野秀俊
量子物性研究部

 超短パルスレーザ生成プラズマからのX線発生法は、X線短パルスを得る手段として有望視されているが、ターゲット表面での高密度プラズマの形成によりレーザ光のターゲットとの相互作用深さが50 nm程度の表皮厚内に制限され、大きな変換効率が得られないという問題があった。この問題を克服する為に、2連のレーザパルスを用い、プリパルスで生成したプラズマが膨張してその密度が下がったところでメインパルスを照射してプラズマを効率的に加熱する事で、X線への変換効率を高める手法が開発された。しかし、低いプラズマ密度はその冷却速度の低下をもたらし、得られるX線パルス幅が単一パルス励起時の5 psから100 ps程度に広がる問題が残った。本研究では、表面に表皮厚スケールのナノ構造配列を形成したターゲットを用いて、レーザ光の相互作用深さを20μm程度に迄拡大し、形成されるプラズマの密度は高く保ったままその容積を増大することで、短いX線パルス幅を保ちつつ、X線領域への変換効率を大幅に向上できる事を明らかにした。
 実験には2種類のナノ構造配列ターゲットを用いた。一つ目はアルミ板の陽極酸化に伴う自己組織化現象を利用して作製した、面に垂直で孔径及び配列が規則的に揃ったナノホール配列アルミナターゲットである[1]。ナノホールの孔径は90 nmでピッチは100 nmであった。二つ目は、ナノホール配列アルミナのホール内に電解メッキで金を充填したのちアルミナ部分を溶解除去することで作製した金のナノシリンダー配列ターゲット(図1)である[2]。シリンダーの直径は80 nmで高さは9μm及び18μmであった。
 これらのターゲットにパルス幅100 fsのレーザ光をピーク集光強度 1.5×1016 W/cm2で照射し、得られる軟X線強度スペクトルを観測した(図2)。生成されるプラズマ容積の増大により、5-20 nmの軟X線領域において従来の平面ターゲットに比べて50〜10倍の時間積分軟X線発生量の増強を得ることができた。一方、高い局所密度のプラズマは急速に冷却され、X線パルス幅の広がり現象が抑えられるため、平面ターゲットで2連パルスを用いたレーザ生成プラズマX線の増強手法や、既存の放射光施設で得られるものより狭い、17ps以下のパルス幅を持つX線が得られ、パルスピーク強度も5〜7倍に増強できた。

[1] T. Nishikawa et al., Appl. Phys. Lett. 75 (1999) 4079.
[2] T. Nishikawa et al., International Conference on X-ray Lasers 2000.

図1 金のナノシリンダー配列ターゲットの側面からのSEM像
図2 金のナノシリンダー配列ターゲット(実線)及び金箔ターゲット(点線)からの時間積分軟X線スペクトル

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