レジストのラフネス発生機構

山口 徹 生津英夫
先端デバイス研究部

 電子線ナノリソグラフィ技術は、単電子トランジスタ等のナノ構造作製に必要な10nm以下の極微細パターン形成を可能にすると期待されている。その実現のためには、転写のマスクとなるレジストパターンのパターン端部のラフネス(凹凸)を低減することが不可欠となる。これまで、ラフネスの発生が、「集合体脱離現像」と呼ぶ現像プロセスに起因していることを明らかにしてきた[1,2]。レジスト膜中には20-30 nm程度の高分子集合体が存在する。これらの集合体内部へは現像液が浸透しにくいため、集合体周囲部分が先に溶解し、現像時に集合体単位で脱離し、パターン表面に露出するため、ラフネスが生じるのである。今回我々は、この集合体脱離現像が、現像に用いる液体分子の大きさに強く依存していることを明らかにするとともに、集合体脱離現像を完全に抑えることに成功した。
 図1は、現像途中のレジスト表面を原子間力顕微鏡(AFM)で観察した像である。表面モフォロジーは、現像液の種類により、大きく異なる。通常のパターン形成に用いている酢酸ヘキシル現像では、多くの集合体が表面に露出している (図1(c))。一方、酢酸エチル現像の場合は、表面に露出している集合体は皆無である(図1(a))。
 レジスト高分子の溶解は、現像液分子の高分子マトリックス中への浸透が律速段階となる。現像液分子の浸透は、高分子マトリックス中の高分子が占有していない空孔(自由体積)を介して行われる。したがって、集合体自身の溶解性は、集合体内部の空孔の大きさと現像液分子の大きさの相対関係により決まる。酢酸ヘキシルのような大きな分子の現像液では、現像液分子は集合体内部に浸透しにくいため、集合体周囲部分が速く溶解する。したがって、集合体脱離現像がおき、多くの集合体が表面に露出する。一方、酢酸エチルのような小分子現像液では、現像液分子が集合体内部に拡散することが容易であるため、集合体自身を溶解することができる。したがって、集合体脱離現像が起きる代わりに、分子レベルで溶解が進行するため、集合体が表面に露出しないのである。酢酸ブチルは臨界的な大きさのため、両者の中間のような状態となると考えられる。これらの結果は、分子レベルの溶解が起きるか、あるいは集合体脱離が起きるかという溶解過程の違いが、ラフネスの発生機構と直接関係していることを示している。

[1] T. Yamaguchi et al., Appl. Phys. Lett. 71 (1997) 2388.
[2] T. Yamaguchi et al., Proc. SPIE 3333 (1998) 830.

図1 現像途中のレジスト表面のAFM像
(a)酢酸エチル現像、(b)酢酸ブチル現像、(c)酢酸ヘキシル現像

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