カーボンナノチューブ配線

小林慶裕 山下隆之 本間芳和 荻野俊郎
先端デバイス研究部

 半導体ナノ構造を電子デバイスに応用するには、ナノ構造間を相互に接続し、信号の入出力を可能とすることが不可欠である。しかしながら、量子効果を発現するような微細で高密度なナノ構造の接続はこれまでの配線技術では困難であった。そこで我々は、カーボンナノチューブ(CNT)を配線材料に用いることを提案している。CNTは、高い伝導率が得られること、機械的に柔軟で強靭なため信頼性の極めて高い配線が可能なこと、1〜10nmの細線が自己形成できることなどが知られている。このようにナノ構造間の配線材料として理想的な物性を備えてたCNTの成長を制御することにより、ナノ構造間の配線を自己組織的にウエハスケールで形成する試みを進めている[1,2]。その最初のステップとしてSiナノ構造間に架橋するCNTの成長に成功した結果を以下に報告する。
 Siピラー形成基板にCNTを成長(口絵参照)した場合の成長形態の分布を図1に示す。全ピラーの3/4でCNTの成長が観察され、その約半数が近傍のピラー間で架橋していることがわかる。常識的にはランダムと思えるCNT成長においてこのように規則的な形態が観測されるのは、成長する際にCNT全体が振動することによって近くのピラーを"探して"いるためであると考えている。このメカニズムを検証するために、CNTの構造をラマン分光法で調べた。図2はピラーの無い領域から存在する領域へスキャンしながら測定したラマンスペクトルである。1316 cm-1の信号はCNTの欠陥に起因する。直線状に成長しており欠陥が少ないと予想されるピラー間に架橋したCNTの方がむしろ多くの欠陥を含んでいることがわかる。この結果はCNTが架橋成長する際に振動することによって欠陥が導入されたことを示唆しており、架橋メカニズムの妥当性を示している。

[1] Y. Homma et al., Jpn. J. Appl. Phys. 41 (2002) L89.
[2] Y. Homma et al., Physica B in press.

図1 CNTのピラー間架橋確率
(Fe触媒、ピラー径100nm、間隔400nm)
図2 ピラー構造領域と平坦領域におけるラマンスペクトルの対比

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