表面ナノ粒子の化学結合マニピュレーションによるSiの多機能化

K. Prabhakaran 荻野俊郎
先端デバイス研究部

 ナノデバイス作製の重要な要素技術は、ナノ構造形成とともにその機能化である。しかし、自己形成においては、ナノ構造のサイズ、形状、空間的な分布、および機能を制御するには多くの問題を抱えている。したがって、自己組織化、あるいは自然に起こる形成プロセスにおいて、新たなアプローチの開拓が必要とされている。我々は、外部で合成されたナノ粒子をSi基板上に導入し、化学結合を操作することによって多彩な機能を実現する新たな手法を提案する。ナノ粒子はSi表面の外部で合成されるため、Si表面では不可能な様々な制御が可能になる。
 まず、外部で合成されたFe2O3 ナノ粒子を超音波によりエタノール中に浮遊させ、清浄Si基板上に付着させる。試料を乾燥させた後、表面物質を分析するための光電子分光を備えた超高真空チャンバ内に入れる。熱処理により、Feと結合していた酸素は結合相手をSiに置換し、SiOとなって表面から脱離する。この反応により、Fe2O3ナノ粒子は760℃付近で完全に還元され、図1に示すように、Si表面には元のFe2O3ナノ粒子のサイズを保持した鉄粒子が形成される。この段階で、Si表面には図2に示すような軟強磁性が発現する。さらにSi薄層を堆積し、550℃で熱処理することにより鉄シリサイドナノ粒子が形成される。同時に、図3のフォトルミネッセンススペクトルに示すような発光の機能が付与される。以上のように、ナノ粒子をSi表面に導入し、その化学結合を操作することによって、もともとSiが持っていなかった様々な機能を発現させることができる。

[1] T. Ogino et al., Account. Chem. Res. 32 (1999) 447.
[2] K. Prabhakaran et al., Advan. Mater. 13 (2001) 1859.

図1 Fe2O3ナノ粒子を導入し、超高真空中で熱処理することによって形成されたSi表面の原子間力顕微鏡像
図2 鉄ナノ粒子を形成したSi基板のヒステリシスをもつ磁化特性
図3 Si薄層の堆積と熱処理を行ったSi基板からのフォトルミネッセンススペクトル

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