神経活動とマグネシウム

鳥光慶一 河西奈保子 神保泰彦
機能物質科学研究部

 生体における反応においてマグネシウムイオンが重要な働きを有していることは良く知られている。しかしながら、脳などの中枢神経系の神経活動に対する役割やその作用機構については、未だ明らかになっていない。本研究では、脳における記憶の中心的役割を担う海馬神経細胞に対し、代表的神経活動である電気信号の変化やグルタミン酸の放出変化を調べることにより、マグネシウムイオン、特に低マグネシウムの神経機能への影響について検討を行っている。
 試料には生まれて間もないラット(Wistar)海馬の分散培養細胞と厚さ300μmの組織切片を用いる。電気測定については、リソグラフィ技術で作製した64チャンネルの微小電極アレイ(電極サイズが10〜50μm角)を用い、グルタミン酸計測には、このアレイ電極上にグルタミン酸の分解酵素であるグルタミン酸酸化酵素とその生成物を分解する酵素の西洋わさびペルオキシダーゼを二重コーティングすることにより電気化学的に空間分布を計測できるようにしたものを用いている。
 マグネシウムイオンを除くことにより、海馬神経細胞の電気活動は、著しく増加する。このとき、細胞からのグルタミン酸の放出も一過性に増加し、その傾向は、海馬の各部分CA1,CA3、歯状回において顕著である。細胞内のカルシウム濃度も一過性に増加する。
 しかしながら、NMDA受容体のアンタゴニストであるMK801は、CA1のみの反応をブロックし、CA3や歯状回には全く影響を与えていない。この結果は、本計測法により海馬におけるNMDA受容体の空間的分布を明らかにすることが可能であるばかりでなく、その機能変化の計測についても可能であることを示唆している。マグネシウムイオンがこれら海馬神経細胞の活動に対し、著しい影響を与えることから,シナプス活動など、神経活動そのものがマグネシウムイオンにより制御されているものと考えられる。

[1] N. Kasai et al., Neurosci. Lett. 304 (2001) 112.
[2] K. Torimitsu et al., Gordon Res. Conf. 3 (2002)

図1 海馬スライス組織におけるグルタミン酸分布とスパイク数
図2 グルタミン酸放出とMg.

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