硼化物超伝導体MgB2薄膜のその場成長

植田研二 内藤方夫
機能物質科学研究部

 2001年に秋光等により見出されたMgB2(図1)はTc(超伝導転移温度)を39Kに持ち、バルクの金属系超伝導体としては最もTcが高い化合物である [1]。現在、超伝導に関する研究は銅系酸化物系を主体に行われているが、そのTcの向上は1993年のHg-Ba-Ca-Cu-O系超伝導体の135 Kを最後に10年近く頭打ちであり、かつ応用の方面でも未だに良質のジョセフソン(SIS)接合が作製することができない等問題が多い。
 そのような状況の中で発見されたMgB2はBCS超伝導体であるにもかかわらず、BCS理論の予測を上回る高いTcを持つため、その超伝導発現機構が注目されている。また、応用の観点からも、初期の実験データで既に高い超伝導臨界電流(〜106A/cm2)が確認されており、かつ、酸化物系に比べて線材加工や微細加工が容易なことから盛んに欧米で実用化研究が進められている。エレクトロニクス応用に関しては、高品質薄膜の作製及び薄膜上に良質のジョセフソン接合の作製ができるか否かがキーポイントとなり、このような観点からMgB2薄膜の合成が多数行われている。しかし、その殆どが高温焼成プロセス(600〜900℃)を併用しており、MgO等の不純物析出、表面劣化、積層界面でのミキシング等の為、接合、多層膜作製には不向きである[2]。
 我々は、分子線エピタキシ法(MBE法)を用い、世界で初めてバルクに近い超伝導転移温度(Tc =〜35K)をもつas-grown MgB2超伝導薄膜を作製する事に成功した[3] (図2)。作製温度は300℃程度であり、バルク(〜1000℃)やアニール膜(600〜900℃)と比較すると格段に低温である。MgB2超伝導薄膜のその場低温作製により、本材料を用いたジョセフソン接合等の形成に進展が期待される。

[1] J. Nagamatsu et al., Nature 410 (2000) 63.
[2] K. Ueda, M. Naito, Studies of High Temperature Superconductors, in press.
[3] K. Ueda, M. Naito, Appl. Phys. Lett. 79 (2001) 2046.

図1 MgB2の結晶構造
図2 MgB2薄膜の抵抗率の温度変化

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