量子光学・光物性の研究概要

向井孝彰
量子物性研究部

 光通信技術や光情報処理技術に大きなブレークスルーをもたらす革新的基盤技術の提案、ならびに、量子光学・光物性分野における学術的貢献を目指して研究を進めています。本研究分野は量子光制御研究グループ、超高速光物理研究グループ、光デバイス物理研究グループ、フォトニックナノ構造研究グループにより進められています。各研究グループの研究項目と本年度の代表的な研究成果の概要を下記に示します。

量子光制御研究グループ
(1)量子情報技術の研究(量子暗号、量子計算、量子エンタングルメントの理論と実験)
(2)原子波制御の研究(アルカリ金属原子のボーズ・アインシュタイン凝縮の理論と実験)

超高速光物理研究グループ
(1)フェムト秒レーザを用いた高輝度・短パルス軟X線の発生・計測とその応用の研究
(2)超短光パルス誘起THz電磁波発生とその応用

光デバイス物理研究グループ
(1)量子ドットの励起子およびスピンの物性とそのコヒーレント量子操作の研究
(2)窒化物半導体の光物性とデバイス応用の研究(吸収・発光、分極効果、励起子効果)
(3)ナノスケール加工技術と周期構造効果の研究

フォトニックナノ構造研究グループ
(1)SOI基板上2次元フォトニック結晶光回路の研究(線欠陥導波路、点欠陥共振器など)
(2)3次元フォトニック結晶および有機フォトニック結晶レーザの研究
(3)フォトニックナノ構造と物質系の相互作用の研究(負の屈折現象、群速度分散)

 本研究分野の本年度の代表的な研究成果4つを次ページ以降に掲載しています。
 個別粒子攻撃に対して安全なビットコミットメントのための量子プロトコルの構築に成功しました。これは、光子などの情報キャリア粒子が持つ物理的な性質を巧みに利用してセキュリティ情報処理を行う量子暗号の手法を、暗号鍵配送以外の認証・署名や秘密証拠供託などのマジックプロトコルに拡張したものです。
 高強度フェムト秒レーザを用いて発生される超短パルス軟X線のパルス幅を、急峻に立ち上がるKr原子の光電界イオン化過程を利用して測定する新しい相関パルス幅測定法を提案、実証しました。本測定法は、現在、ストリークカメラの1psに制限されているX線領域でのパルス幅測定の時間分解能を大きく向上させる可能性を秘めています。
 単一のInGaAs量子ドット中に生じる励起子の分布数を、照射する光パルス対の位相制御により、加算と減算を自在に制御できることを実証しました。この結果は、量子ドット励起子を基本素子とする光量子コンピュータが必要とする回転ゲート操作を実現したものです。
 SOI基板上の2次元フォトニック結晶中に光導波路を作製し、バンドギャップ波長内で単一モード伝搬する光導波路としての動作を初めて確認しました。また、この光導波路中では光の伝搬速度が空気中の光速の1/100まで減速することを見出しました。これらは、将来のフォトニック結晶をベースとした超小型・高機能光集積回路実現への大きなステップです。


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