超短パルス軟X線波形計測

小栗克弥 中野秀俊 西川正
量子物性研究部

 近年、高強度フェムト秒レーザを用いた様々な超短パルスX線光源の開発により、ピコ秒からサブピコ秒スケールの時間分解X線吸収やX線回折の実験が可能となってきている。そのような超高速時間分解X線分光における時間分解能はX線のパルス波形によって制限されているため、X線パルス波形は把握すべき重要なパラメータである。しかしながら、従来X線パルス波形計測に用いられてきたX線ストリークカメラの時間分解能は現時点で高々0.9 ps程度であり、さらに高い時間分解能を達成するのは難しい。従って、サブピコ秒のX線パルス波形を測定するためには、フェムト秒レーザパルスの波形計測に幅広く用いられてきた相関法をX線の波長領域まで拡張することが不可欠ある。
 我々は光電界イオン化によるKr+イオンの急峻な密度変化を超高速動作するX線吸収スイッチとして利用した相互相関法を用いて、100 fsレーザ生成Wプラズマから発光する超短パルス軟X線波形計測の実証実験を行った[1]。図1は時間積分した軟X線スペクトルの一例である。図1(a)はプラズマからの軟X線発光スペクトルを示している。図1(b)は、Krガス中の軟X線透過スペクトルであり、13.5 nm付近に3本の中性Krの吸収線が明瞭に観察される。軟X線パルスの到着より3 ps以前にKrガスにポンプ光を照射すると、イオン化のためKrイオンの吸収線が新たに現れ、それに伴い中性Krによる吸収は減少する (図1(c))。15.6 nmに位置するKr+の吸収線に着目し、その差分透過量をレーザパルスと軟X線パルスの遅延時間の関数として図示した(図2)。この図の差分透過量は軟X線パルスと階段関数的に瞬時変化する軟X線吸収とのたたみこみである。その結果、軟X線パルス波形をガウシアンと仮定してデータをフィッティングすることにより、半値全幅が3.8 psであることがわかった。この値はストリークカメラによる計測値ともよく一致しており、本方法の有効性が実証できた。本方法の時間分解能を制限する光電界イオン化は照射するレーザパルスの立ち上がり部分で完了するので、レーザ光のパルス幅よりもさらに短い時間分解能が期待できる。

[1] K. Oguri et al., Appl. Phys. Lett. 79 (2001) 4506.

図1 波長13 - 16 nm領域における軟X線透過スペクトル
図2 15.6 nmにおける軟X線透過量の遅延時間依存性

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