単一量子ドット励起子の量子ゲート操作

鎌田英彦 後藤秀樹
量子物性研究部

 量子コンピュータに必要な量子ビットの実現に向けて、半導体量子ドット中に生じる励起子(一対の電子・正孔ペア)を光によって自在に制御することに成功した。
 半導体量子ドット励起子では、状態の離散化によるフォノン散乱の抑制から長いコヒーレンス寿命が得られる。このため、コヒーレンス寿命以内に極短パルスレーザを用いて十分な回数のゲート操作を行うことができると期待され、量子コンピュータおける量子ビットの候補として非常に有望である。
 InGaAs量子ドットへの光照射により光の位相情報は励起子の周期的な分極振動へ受け継がれる。この分極振動のコヒーレンスが続く限り、励起子が存在する確率は時間の経過とともに光の吸収によって増大し、また逆に光を放出することで減少する。光電場に比例して頻繁になるこの繰り返しがラビ振動である。これまでの研究により、このラビ振動の観測に成功し、さらに分極振動が40 ps以上と普通の半導体の数10から数100倍も長く続くことを確認していた。
 今回、励起子の存在確率の自由な制御を目的として、時間を精密に制御してずらした2つの光パルスを単一の量子ドットに照射して、励起子重ね合わせ状態の制御を狙った。光がつくるコヒーレントな重ね合わせ状態はフォノン放出によって最低準位へ転写されるため、励起子の存在確率はそこでの自然放出光の強度から知ることができる。1.5 psの第1パルスで約30-40%の重ね合わせ状態をつくり、その10 ps後に同位相のパルスを照射した時には励起子の強度は倍増し、逆位相の場合には消滅することが確認できた(図1)。この結果は量子ドット励起子を基本要素とする量子ビットで量子コンピュータが必要とする回転ゲート操作を実証したことを意味する。

[1] H. Kamada, H. Gotoh, J. Temmyo, T. Takagahara, and H. Ando, Phys. Rev. Lett. 87 (2001) 246401.

図1 1.5 psの光パルス対による重ね合わせ状態の制御の実験:第1パルスの後、第2パルスが同位相であるか逆位相であるかに応じて、励起子のpopulationは倍になるか、消失する。

【もどる】