ランタン銅酸化物における銅・酸素配位制御
−分子線エピタキシ法を用いた新物質開発−

束田昭雄 内藤方夫
機能物質科学研究部

 希土類銅酸化物RE2CuO4(RE=希土類元素)はK2NiF4構造(銅・酸素八面体型6配位)とNd2CuO4構造(平面体型4配位)の2種類の結晶構造をとる(図1)。前者はホールドープ型、後者は電子ドープ型高温超伝導体の基本結晶構造として知られている。どちらの構造が安定化するかは、第一義的には、希土類元素のイオン半径によって決まり、イオン半径の大きなLaでは K2NiF4構造が安定化し、イオン半径がPr以下の元素ではNd2CuO4構造が安定化する。しかし、イオン結合性の強いRE-Oボンドと共有結合性の強いCu-Oボンドの熱膨張係数の違いのために、La2CuO4も400℃以下の低温合れば、Nd2成をすCuO4構造をとることが予測されていた[1]。Nd2CuO4型のLa2CuO4を合成する試みは過去に行われたが、バルク合成では、酸化物や炭酸化物の混合粉を拡散過程で化学反応を起こさせるために、400℃という低温では反応が起こらなかった[2]。我々は分子線エピタキシ法を用いた低温合成により、Nd2CuO4構造のLa2CuO4の単結晶薄膜合成に初めて成功した[3]。
 図2は、6配位のK2NiF4構造のLa2CuO4(白領域)と4配位のNd2CuO4構造のLa2CuO4(灰領域)の選択成長が可能なことを示したものである。縦軸は成長温度、横軸は基板格子定数である。本結果は人工的にCu-O配位を制御した最初の例であり、新物質合成の戦略技術ととらえることができる。

[1] A. Manthiram and J. B. Goodenough, J. Solid State Chem., 92 (1991) 231.
[2] F. C. Chou et al., Phys. Rev. B, 42 (1990) 6172.
[3] A. Tsukada, T. Greibe, and M. Naito, Phys. Rev. B, 66 (2002) 184515.

図1 RE2CuO4の結晶構造
(a)K2NiF4構造、(b)Nd2CuO4構造
図2 La2CuO4の結晶構造と成長温度、
基板格子定数との関係。
灰色の領域にNd2CuO4構造が安定化。

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