量子ドット超格子を用いた超伝導体の設計

田村浩之 高柳英明
機能物質科学研究部

 固体の電子状態は結晶構造と密接に関連しているが、結晶構造はそれを構成している元素の原子的性質によってほとんど決まってしまう。しかし、人工原子をあらかじめ設計して決めた格子構造に作り込んで人工結晶を作り出すことが出来れば、所望の物理特性を選択的に発現させることが出来ると予想される。これまで我々は半導体の量子ドットを格子点上に配置して互いに結合させることによって、量子ドット超格子と呼ばれる人工結晶を作り出すことを提案してきた[1,2]。
 ここで我々は、図1のような量子細線のネットワークが量子ドット超格子として機能し、正方格子やプラケット格子の量子ドット列が実現できること提案する[3]。プラケット格子とは、図2の挿入図にあるように各単位胞内に正方形のプラケットをもち、その4つの頂点を格子点を持つような格子形のことをいう。我々はスピンに依存する局所密度近似を用いてこの細線ネットワークのバンド構造を計算し、どちらの格子構造もハバード模型でよく表されることを示した。この2つの格子構造の違いはフェルミ面の形が異なる点に現れ、正方格子はただ1つのフェルミ面からなるのに対して、プラケット格子は互いに連結していない4つの部分に分かれている。このようなフェルミ面の構造とクーロン相互作用とがどのように電子相関効果に影響を与えるかを調べるために、我々は2つの格子構造をもつハバード模型を調べた。その結果、細線ネットワークが低温で超伝導となることを見いだした。また、図2に示すようにプラケット格子における超伝導転位温度は、正方格子のものと比べると2倍以上になることも見いだし、実験で十分観測可能であることを示した。

[1] H. Tamura, K. Shiraishi, T. Kimura, and H. Takayanagi, Phys. Rev. B 65 (2002) 085324.
[2] K. Shiraishi, H. Tamura, and H. Takayanagi, Appl. Phys. Lett. 78 (2001) 3702.
[3] T. Kimura, H. Tamura, K. Kuroki, K. Shiraishi, H. Takayanagi, and R. Arita, Phys. Rev. B 66 (2002) 132508.

図1 量子細線ネットワーク。InAsからなる細線がIn0.776Ga0.224Asのバリアの中に埋め込まれている。隣り合う細線の間隔はaとbで表し、a=b (a<b)の場合が正方(プラケット)格子に対応する。
図2 超伝導転位温度Tcをトランスファエネルギーtaで表した図。プラケット格子 (ta=1.5, tb=0.5)のTcは正方格子 (ta=tb=1)のものよりも倍以上も大きい。挿入図は図1に対応する強結合模型(ta and tbはトランスファエネルギー)

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