量子電子物性の研究概要

平山祥郎
量子物性研究部

 情報通信技術に大きな変革をもたらす先端半導体成長技術を駆使した革新的半導体デバイスの提案、ならびに電子物性分野における学術的貢献を目指して研究を進めています。本研究分野の研究は量子電子物性研究グループ、ワイドギャップ半導体研究グループにより進められています。各研究グループの研究項目と本年度の代表的な研究成果の概要を下記に示します。

量子電子物性研究グループ
(1) 半導体ヘテロ構造中のキャリア相関の研究(高移動度半導体二層二次元系のキャリア相関、伝導電子と核スピンの相関)
(2) 量子ドット半導体構造における量子電子状態制御の研究(量子ドットの電子状態、スピン状態制御、キャリアダイナミクス、固体量子計算機に向けた基本特性の解明)
(3) 半導体ナノメカニクスの研究(構造作製と物性評価)
(4) 低温STMによる電子状態のナノスケール観測の研究

ワイドギャップ半導体研究グループ
(1) 紫外LED光デバイスとその物理、マイクロファセットを用いた光デバイスの研究
(2) 窒化物FET、HBTデバイスとキャリア輸送特性の研究
(3) ワイドバンドギャップ半導体へのドーピング特性の研究
(4) ダイヤモンドやInNなどの新しい半導体材料の研究

 本研究分野の本年度の代表的な研究成果を次ページ以降に掲載しています。
 量子ドット系に関しては電気的なポンプ・プローブ法を確立しました。励起状態から基底状態への電子の緩和時間を正確に測定し、緩和がスピン反転を伴う場合に緩和時間が極めて長くなることを見出しました。この成果は電子スピンが量子ドット中で外界から良く隔離されていることを示しています。また、結合量子ドットにおける電子のコヒーレント振動の観察にも成功しました。これは半導体による全電気型電荷量子ビットの世界最初の実現例です。
 二次元電子系と核スピンの相関に関しても研究を進め、ある条件で二次元系に流す電流により核スピンが偏極するなど、核スピン偏極、緩和の全電気的な制御の可能性を示しました。ナノメカニクスの研究ではInAsをベースにしたメゾスコピック寸法のカンチレバーを作製し、量子効果に基づく高感度を実現しました。
 ワイドギャップ半導体に関する研究では、オーミック特性を改良するために再成長技術を駆使しnpn型GaN/InGaNヘテロバイポーラトランジスタ(HBT)を作製しました。これにより従来報告された素子をはるかに超える特性を実現することができました。この結果は窒化物系HBTが将来の高出力電気デバイスに有望であることを示しています。
 また、従来バンドギャップが1.9eVと信じられていたInNのバンドギャップについて高品質結晶を用いて再調査することにより、実はバンドギャップが0.9eVであることを確認しました。これは窒化物半導体が通信用の光デバイスにも有望な材料であることを示しています。


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