ウルツ鉱型結晶InNのバンドギャップ・エネルギ

松岡隆志
量子物性研究部

 1989年に提案されたInGaAlN窒化物半導体は、青色LEDなどに実用化されている[1]。しかし、この中でInNが、ミステリアスな材料として残っていた。窒素の平衡蒸気圧が極めて高く、成長が難しいためである。吸収から求められた多結晶InNのバンドギャップ・エネルギEgは光学吸収から1.8-2.0eVとされていた。一方、単結晶InGaNのEgはIn組成0-42%の間で明らかにされており、In組成42%のときのEgはInNの報告値にほぼ近く、単結晶InNのEgは報告値よりかなり小さいと予想されていた[1]。ここでは、高品質InNを用いて測定されたEgが、従来の報告値の半分以下であることを述べる。
 単結晶InNは、有機金属気相成長法(MOVPE)を用いて、(0001)面サファイア基板上に温度500℃で常圧成長された。成長原料はトリメチルインジウムとアンモニアである。それぞれの流量は毎分1-6μmolと15リットルであり、大きなV/III比が膜中へのインジウムの析出を抑制している。光学吸収特性として、吸収量の二乗とフォトン・エネルギとの関係を図1に示す。直線領域から内挿して求められるEgは、0.8-1.0eVである。また、図2に示す室温でのフォトルミネッセンス・スペクトルにおいても、0.76eVに発光を観測された。一方、従来の報告値2eV近傍では、0.6MW/cm2という強励起下でも、非発光である。InGaNのEgをまとめて図3に示す。多結晶のEgは、常に単結晶より大きい。実験データに最小自乗法でフィッティングした二次曲線の外挿点から求めたInNのEgは0.85eVである。
 以上の結果から、InNのEgは、0.8eV近傍と推定される。この値と報告されている従来の報告値との差異は、多結晶と単結晶の差と思われる。今後、精密なEgの決定のためには、低キャリア濃度で高品質な厚膜InNの成長を待つ必要がある。ここで示した結果は、InGaAlNを光通信領域へも適用できることを示している。

[1] T. Matsuoka et al., Proc. Int. Symp. on GaAs and Related Comps, Karuizawa, Japan, 1989, 141.
[2] T. Matsuoka et al., Appl. Phys. Lett. 81 (2002) 1246.

図1 InNの光学吸収
図2 InNの室温でのフォトルミネッセンス
図3 InGaNバンドギャップ・エネルギ

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