サイエンスから革新的技術まで

 日頃より私どもNTT物性科学基礎研究所の研究活動に多大なご支援・ご関心をお寄せ頂き誠にありがとうございます。
 1998年に基礎研究所が物性科学基礎研究所とコミュニケーション科学基礎研究所に分かれて後、物性基礎研は、文字通りハード面での基礎研究を担ってきました。そのミッションは、(1)速度/容量/サイズなどネットワーク技術の壁を越える新原理・新コンセプトの創出と(2)5〜20年後を見据えた、将来のビジネスにつながる基礎技術の開拓です。その代表格が、量子情報処理とナノバイオです。
 量子情報処理研究の中核を成すのは、量子コンピュータと量子暗号です。物性基礎研では、集積性の有利さから固体素子による量子ビット研究を遂行しており、世界の研究の一翼を担った成果を挙げています。さらに、単一光子 を用いた量子暗号研究を強力に推進しています。一方ナノバイオ研究は、神経科学、バイオ分子科学そしてナノテクノロジーを融合した形で推進しています。例えば分子と蛋白とのハイブリッド構造は、新しいデバイスを予感させます。
 このような強化項目を前面に押し立てる一方で、低次元電子系における量子相関、1個1個のスピンを情報担体とするシステム、さらに量子ドットをbuilding blockとした物質設計、カーボンナノチューブにおける電気特性、超伝導と結びつけたMEMSなど、探索的研究も展開しています。このような探索的研究を行うにあたっては、将来の新しい技術の核となるかどうかを判断する必要があり、研究担当者とマネージャーとの日常のコミュニケーションが重要な役割を果たします。
 物性基礎研では、このような将来の芽を育てる探索的研究を遂行する一方で、革新的な技術の研究も平行して行っています。例えば我々は、高品質のダイヤモンド薄膜を成長する技術開発を通して、ダイヤモンドトランジスタを80GHzで動作させることに成功しています。その他、超低消費電力デバイスである単電子トランジスタ、能動的な光回路としてのフォトニック結晶、ワイドギャップ半導体による光デバイスなどのコア技術を展開しており、これらはネットワークの壁を超える革新技術として位置づけています。
 さらにNTT内の他の研究所との連携を密にする一方で、国内外の多くの研究機関との共同研究も積極的に展開しています。オランダのデルフト工科大学やスタンフォード大学とは量子ドットや量子ビットで共同研究を行っており、多くの優れた成果を挙げています。また、先ごろ開始した東京大学とのナノバイオにおける共同研究も、今後の実りが期待されます。
 共同研究は物性基礎研からの情報発信という役目も果たしていますが、その他、物性基礎研では、国際シンポジウム、サマースクール、そしてInternational Advisory Board Meeting等の開催を通して、広く世界に情報発信し、開かれた研究所としての使命を果たしています。
 本冊子は、2003年度の成果と研究活動についてご紹介しております。この小冊子をご覧いただき、国内外の研究交流促進の一助となれば幸いです。

2004年6月

NTT物性科学基礎研究所長
〒243-0198 厚木市森の里若宮3-1
電話 : 046-240-3300
FAX : 046-270-2358
E-mail : takayanagi@nttbrl.jp



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