ダイヤモンドMESFETのマイクロ波動作

嘉数 誠
量子物性研究部

 通信情報量が急速に大容量化する現在、より高周波で動作可能な高出力の電子デバイスが求められている。ダイヤモンドは最高の熱伝導率を有し、大電力動作時の放熱性に最も優れている。またダイヤモンドは破壊電界強度が高いため、高電圧動作が可能である。これらの性質は、高出力デバイスとして重要である。それに加えて、移動度やドリフト速度が高いので、高周波、高速動作が可能である。実際、物理定数から計算される、高周波・高出力デバイスとしての性能指数では、ダイヤモンドに及ぶ半導体は存在しないため、「究極の半導体」と呼んでも過言ではない。にもかかわらず、これまで高品質のダイヤモンド薄膜を得ることは非常に困難であった。それは、結晶成長中に、結晶欠陥が容易に形成し、高濃度の不純物が取り込まれるためである。
  我々は、結晶欠陥や不純物を低減させて、高品質ダイヤモンド薄膜結晶を成長する技術を開発した[1]。次に、それによって結晶成長した薄膜を用いて、ドイツ・ウルム大学と共同で、図1のような、ダイヤモンド電界効果トランジスタ(FET)を作製した[2]。FETでは、水素終端によって表面近傍に擬二次元正孔チャンネルが形成されている。また電子ビーム露光とセルフ・アライン技術によって0.2ミクロン長の短ゲート電極を形成した。|h21|2、最大有能電力利得(MAG)、最大単方向電力利得(U)の周波数特性(図2)から得られた遷移周波数(fT)、最高発振周波数(fMAX(MAG)、fMAX(U))は各々25GHz、63GHz、81GHzになった。これはダイヤモンドでは最高であることは言うまでもなく、ダイヤモンドFETがミリ波帯域で電力増幅可能であることを初めて示した。
 ダイヤモンドFETは、1GHz、A級動作での電力特性で、広い入力電力レンジにわたって14dBの線形電力利得を示し、最大出力電力は0.35W/mmになった。この最大出力電力は、パワーデバイス構造を最適化することで、原理的に1桁ほど上げることができる。また3GHzで測定した雑音特性では、0.72 dBの最小雑音指数を示した。この値は、同じゲート長のSi MOSFETより優れており、p-GaAs HEMT、n-GaN HEMTと比べても遜色がない。このことはダイヤモンドFETがマイクロ波送信デバイスだけでなく受信デバイスとしても有望であることを意味する。

[1] M. Kasu, M. Kubovic, et al., Diamond and Related Materials 13 (2004) 226.
[2] M. Kubovic, M. Kasu, et al., to be published in Diamond and Related Materials (2004).

図1 ダイヤモンドFET全体像
図2 電力利得の周波数特性

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