位相シフト法による量子ビットにおけるコヒーレンスの高速制御

田中弘隆 沓澤竜弥 齊藤志郎
量子電子物性研究部

 ジョセフソン接合を持つ超伝導リングは、量子2準位系として振舞い、量子情報処理の基本素子である量子ビットとしても期待されている(図1)。このリングの量子力学的なコヒーレンスを、位相をシフトさせた2つのマイクロ波パルスを用いることにより、制御・観測することに成功した。このリングは、電流が時計回り・反時計回りに回っているという2つの状態を持ち、それらは量子力学的な重ね合わせを示す。このリングの大きさは〜10μmと原子や分子などに比べると巨視的であるが、状態は量子2準位系として動作する。そしてこの2つの状態、|0>と|1>はそれぞれ、相対位相を含む重ね合わせ状態になることが、実験で確認された。巨視的な物体でもあるにかかわらず、量子的な重ね合わせを表す現象は、シュレディンガーの猫とも言われている。(口絵参照)
 我々は、位相・パルス同時変調を用いた位相シフト法により、11.4GHzで持続時間が5nsの、2つの連続的に位相の異なるマイクロ波パルスを、超伝導リングに印加した。最初のパルスで、リングの波動関数は、|0>と|1>の重ね合わせ状態になる(図2下部の球の赤道上の点)。このとき、超伝導のリングは、最初のパルスの位相に応じた重ね合わせ状態となる。続いて、2つめのパルスを与えると、相対的なパルスの位相によって、リングは、別の状態に遷移する。(図2の球の赤道、北極、南極に相当する点)
 我々は、今回開発した位相シフト法により、高速、高効率な量子状態制御が可能であることを実験的に示した[1]。本方法により、量子ビットの代表的な演算である、アダマール変換も効率的に実現出来る。更に、2量子ビット以上の系においても、最適なパルスの組み合わせを選択することが可能になった。
[1] T. Kutsuzawa, et al., Appl. Phys. Lett. 87, (2005): (accepted). ArXiv : cond-mat/0501592.
図1 超伝導量子ビットの電子顕微鏡像
内側の四角い輪が量子ビットで、その外側が、読み出し用のDC-SQUID(超伝導量子干渉計)である。
図2 2つのパルスを印加した場合の状態
最初のパルスの位相に対する2つ目のパルスの位相によって、状態が振動している。パルスの相対位相を制御する事によりxy面内での量子ビットの回転軸を変化させる事ができるようになった。


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