低損失フォトニック結晶スラブ導波路の作製と物理

倉持栄一 Stephen Hughes 納富雅也
量子光物性研究部

 近年、高いQ値を持つナノ光共振器と低損失ナノ光導波路を実現できる2次元フォトニック結晶スラブ(PCS)が脚光を浴びている[1]。理想結晶においては線欠陥導波路における導波モードをフォトニックバンドギャップ内かつライトラインの下側に制御すれば導波路が無損失になることが分かっているが、現在のリソグラフィー技術で不可避なナノメートルオーダーの加工揺らぎが招く面外散乱により重大な損失増大が発生していると考えられている。
 本研究では加工揺らぎの低減により低損失化できることを示すために、1nmの位置精度と100kV加速による電子線リソグラフィでSi-PCSを加工し、その際近接効果の抑制に努めた。電子顕微鏡により高精度加工を実証し(図1)、加工揺らぎが3nm程度(RMS)であることを確認した。カットバック法により導波路の損失スペクトルを求めたところ、最低損失がフォトニック結晶導波路として最高記録である5dB/cmであることを確認した(図2)[2]。
 また本研究ではPCS導波路の損失の物理の解明にも取り組んだ。PCSの電磁場に対するグリーン関数法を定式化し[3]、それを導波モードにおける揺らぎによる散乱問題に適用した。損失が単純に始状態・終状態における揺らぎと状態密度の積で表せることを導いた。加工揺らぎ3nmとして計算した損失スペクトルは測定結果と驚くべき一致を示した(図2)[2]。このような詳細な損失計算は本研究で初めて実現された。さらに実験と計算により、PCS導波路の散乱損失機構を詳細に解析した。その結果、PCS導波路では、後方散乱、モード間散乱など複数の散乱過程がバンド構造の影響を強く受けるため、損失スペクトルを決める機構が通常の導波路とは大きく異なることが初めて明らかになった。
 以上述べたように、今回我々は低損失導波路の主な損失要因が加工揺らぎであることを明らかにし、また加工揺らぎによる散乱損失のその物理機構を理論、実験の両面から明らかにした。
[1] M. Notomi et al., Optics Express 12, 1551 (2004).
[2] E. Kuramochi et al., LEOS2004, WF6 (2004).
[3] S. Hughes et al., Phys. Rev. Lett. 94, 033903 (2005).

 

図1 PCSの電子顕微鏡像
図2 PCS導波路の損失スペクトル


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