ナノキャパシタンスの物質依存性に関する理論検討

内田和之 影島博之 猪川洋
量子電子物性研究部

 ナノスケールの構造を持つナノデバイスでは、これまでにない特徴的な物性の発現が期待されているが、その物性に関するミクロな理解はまだこれから多くの検討を要する状況である。例えば、電界効果トランジスタ(FET)などの基本特性であるキャパシタンス特性が、ナノスケールになった場合にどのように物質に依存するかはまだ明らかでない。我々は、原子の配置と元素の種類を与えるだけで第一原理からキャパシタンス特性を計算できる新しい手法(EFED法、フェルミエネルギー分割法)を開発し、ナノスケールキャパシタの特性の物質依存性の検討を行った。
 通常の第一原理計算は全電子系の最安定な状況を計算するため、電子が必ず原子核の正電荷を遮蔽するように満遍なく系全体に拡がる。しかし、これでは電荷が偏らず、キャパシタンス特性を計算することはできない。この問題をクリアするために、我々は系を空間的に分割し、その分割した系の間に仮想的に外部から電荷を移動させる仕事を与えることにした。こうして全電子系の自由エネルギーに電荷に対する仕事の項を加えたうえで、この自由エネルギーを最安定化するような条件で、電子に対する運動方程式を導き出すことができ、そうすると電荷が偏って存在する状況における電子状態の計算が自動的に可能となる。これがEFED法の原理である[1]。
 この手法を用いて計算したナノキャパシタのキャパシタンス特性のフェルミエネルギー差依存性を図に示した。対象はSrTiO3(001) 3原子層薄膜を交互に並べ電極としたもので、図の縦軸は微分キャパシタンスの逆数に取ってある。古典的には平行平板のキャパシタンスはC = eS/d と電極間距離と電極間材料の誘電率だけで決まるが、ナノ構造では必ずしもそうではなく、電極内の電子の状態が空間的な閉じ込め効果と電子相互の反発力のために離散的になる傾向が強くなるため、電極間距離や電極間材料を変えなくても電位差(フェルミエネルギー差)に伴ってキャパシタンスの値が変化することが明らかになった。

[1] K. Uchida, et al., e-J. Surf. Sci. & Nanotechnol. 3 (2005) 453.

図1 SrTiO3ナノキャパシタ 図2 キャパシタンス特性

 


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