フェムト秒レーザアブレーションプルームの時空間分解軟X線吸収分光

 

小栗克弥 岡野泰彬 西川 正 中野秀俊
量子光物性研究部

 近年のレーザ励起X線源やシンクロトロン放射光源における超短パルスX線発生技術の進展に伴い、これらの光源を応用した時間分解X線計測技術が注目されている。この技術により、これまでのX線分光では計測不可能であった非平衡系の結晶構造、原子間距離や配位状態、電子状態等の超高速ダイナミクスの計測が可能となり、従来のX線科学と超高速光物理が融合した「超高速X線科学」分野の発展が期待されている[1]。我々は、これまでに開発した時間分解軟X線吸収分光法を拡張し[2]、時間変化と空間変化を同時に計測可能な時間空間分解軟X線吸収分光システムの開発を行った[3]。本計測法を、新たなレーザプロセス手法として注目されているフェムト秒レーザアブレーション過程に適用し、本計測法がアブレーションプルームのような固相から気相までの相転移や結合の解離などを伴い時間空間共に複雑に変化する系の計測に有効であることを実証した[4]。

 本システムの特徴は、フェムト秒レーザプラズマ軟X線のピコ秒領域の短パルス性と、Kirkpatrick-Baez型軟X線顕微鏡の高空間分解能性を組み合わせることにより、時間・空間分解能、軟X線光量等の特性を向上させた点にある。軟X線結像光学系と透過型回折格子により、一次元空間情報とスペクトル情報が同時に取得可能である(図1)。図2は、尖頭強度約1.5×1014 W/cm2のフェムト秒レーザパルスをAlテープに照射して発生させたAlアブレーションプルームの軟X線吸光度画像の時間発展を示している。Alプルームによる特徴的な吸収が遅延時間とともにターゲット表面から遠方に広がり、吸収の大きさも時間とともに増加することが分かる。プルームの LII,III吸収端に着目すると、固体Alの場合と比べて短波長側にシフトしている他、明瞭な時間・空間依存性が見られた。このような吸収端のシフトは、プルームを構成する主な粒子の違いに起因し、短波長側にシフトするほど多価のイオンに対応すると考えられる。以上のように、本計測法はアブレーションプルームの初期過程計測に有効であることが実証できた。

[1] Bressler and Chergui, Chem. Rev. 104 (2004) 1781.
[2] Oguri, et al., Appl. Phys. Lett. 87 (2005) 011503.
[3] Okano, et al., Rev. Sci. Instrum. 77 (2006) 046105.
[4] Okano, et al., Appl. Phys. Lett. 89 (2006) 221502.

 

図1 時空間分解軟X線吸収分光システム像
  図2 Alプルームの時間分解軟X線吸光度画像
 

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