200 kmの光ファイバ上での量子鍵配送実験

武居弘樹1 S. W. Nam2 Q. Zhang3 R. H. Hadfield2 本庄利守1 玉木 潔1 山本喜久3
1量子光物性研究部 2NIST 3スタンフォード大学

 量子鍵配送(QKD)の実用化のためには、鍵配送距離と鍵生成率の増大は重要な課題である。今回、世界最速となる10 GHzクロック周波数のQKDシステムと、低雑音、高時間分解能の光子検出が可能な超伝導単一光子検出器(SSPD)を用いて200 kmの光ファイバ上でのQKDに成功した[1]。これは、QKD実験における鍵配送距離の世界記録である。
 差動位相シフト(DPS)プロトコル[2]に基づいて図1の実験系を構築した。送信者アリスは、レーザからの連続光を高速強度変調器により変調して10 GHz繰り返しの光パルス列を生成し、位相変調器により各パルスの位相を0またはπでランダム変調した後、減衰器によりパルス当りの平均光子数が0.2となるよう光強度を減衰させ、光ファイバ伝送路を介して受信者ボブに送付する。ボブは、受信したパルス列を1ビット遅延干渉計に入力して隣接パルスを干渉させる。パルス間の位相差が0(π)であれば光子は干渉計のポート1(2)から出力され、SSPD1(2)で受信される。ボブは、光子を受信した時刻を通常の通信手段によりアリスに通知する。これにより、該時刻においてボブが観測した位相差情報を両者で共有し、One time pad暗号の鍵として使用することができる。
 SSPDは、超伝導状態にある窒化ニオブの細線に臨界電流より少し小さいバイアス電流を印加した状態で光子を入射すると、超伝導状態が壊れ、マクロスコピックな電圧変化が発生することを利用して光子を検出するものである。量子効率は現在のところ1%程度であるが、暗計数率が10 Hz程度と低いため、長距離のQKD実験に適している。また、約60 psという高い時間分解能を有し、10 GHzクロック周波数の高速QKDシステムに適用可能である。
 実験の結果得られた一般的個別攻撃[3]に対して安全な鍵生成率と伝送距離との関係を図2に示す。200 kmのファイバ長において安全鍵を生成した。また、105 kmの伝送距離において従来の記録を2桁上回る17 kbit/sの鍵生成率を得た。
 本研究の一部は、科学技術振興機構CRESTおよび情報通信研究機構の支援を受けて行われた。

[1] H. Takesue, et al., Nature Photonics 1 (2007) 343.
[2] K. Inoue, E. Waks, and Y. Yamamoto, Phys. Rev. Lett. 89 (2002) 037902.
[3] E. Waks, H. Takesue, and Y. Yamamoto, Phys. Rev. A 73 (2006) 012344.

図1 実 験 系 図2 安全鍵生成率と伝送距離

【前ページ】 【目次へもどる】 【次ページ】