ジョセフソン永久電流量子ビットのシングルショット測定

仙場浩一 田中弘隆 齊藤志郎 中ノ勇人
量子電子物性研究部

 永久電流(磁束)量子ビットの状態読み出しに、私達はdc-SQUIDを使っている[1]。ジョセフソン接合のパラメータを注意して選べば図1(a) 内側のループは、実効的な単一の量子二準位系 (qubit) となる。系のハミルトニアンは Hq=(εfσzσx)/2である。ここで σx,z はパウリ行列を示す。ループ状の超伝導体ではフラクソイドが量子化されるため、超伝導電流がqubitループを時計回りに流れる状態 |R>と、反時計回りに流れる状態 |L> が σz の2つの固有状態である。dc-SQUID 測定では σz に比例した応答が検出できる。図2(a) に dc-SQUIDスイッチング電流の印加磁束 f =Φext/Φ0依存性を示す(Φ0は磁束量子h/2e)。個々の点は平均していない1回1回の読み出しに対応する。古典的には安定な|L>、|R>状態は量子トンネルΔが存在すると不安定化するため、図2(b)に示すqubitのエネルギー固有状態 |0>、|1>は一般的には巨視的に識別可能な電流状態|L>と|R>の重ね合わせ状態である。図2(e)に Δ>>εf〜0となるf =1.5 磁束バイアスでのSQUIDのスイッチング電流分布を示す。χ字状のqubit ステップが明瞭に観測されている。分布幅が広い方が基底状態 |0>他方が励起状態 |1> に対応する。これらのことから Φext 磁束シフトパルスを援用すれば、スピンの重ね合わせ状態をStern-Gerlach装置で測定したようにqubitの重ね合わせ状態を|L>、|R>状態へとシングルショット(σz) 測定可能なことが分かる。このdc-SQUID測定が有利な点はqubitと測定装置dc-SQUIDの相互作用の強さを自在に制御できることである。Stern-Gerlachの実験ではスピンと測定装置の相互作用の強さは固定されており、スピン固有状態間のエネルギー差よりも圧倒的に大きかったのである。このように、超伝導量子回路系では、量子測定の実時間制御を行える可能性がある。

[1] K. Semba et al., Quantum Information Processing 8 (2009) 199.
 

 
 
図1  (a) 超伝導qubit (内側のループ) の走査電子顕微鏡写真 dc-SQUID (外側のループ)はqubit状態測定装置。 2つの矢印はqubitの 電流状態 |L>、|R> を表す。 (b) 位相空間で のqubitのポテンシャル。 (c)測定系の模式図 qubitの測定温度は希釈冷凍機温度25 mK。
図2  (a) dc-SQUID測定器のスイッチング電流の磁束f 依存性 f =Φext/Φ0Φext はqubit ループを貫く外部磁束を表す。 (b) qubit のエネルギー固有状態 {|0>、|1>} と電流固有状態 {|L>、|R>}。(c) |0> と |1> のσz 測定期待値。(d) f =0.5付近の拡大図、 (e) f =1.5付近の拡大図。

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