半導体二重量子ドットにおけるトンネルダイナミクスの広帯域キャパシタンス測定

太田剛 林稔晶 村木康二 藤澤利正
量子電子物性研究部 東京工業大学

 量子ドットの電子状態を調べる手法の1つとしてキャパシタンス測定が挙げられる。我々は、二重量子ドットと量子ポイントコンタクト(QPC)に独立に高周波電圧を印加することにより高速キャパシタンス測定を行った[1]。図1(a)に実験の模式図を示す。二重量子ドットに高周波電圧VDQD(t)を印加すると、ドットのポテンシャルが変調され、ドット間の電荷移動に起因する電荷QDQD(t)が生じる。QPCのコンダクタンスがQDQD(t)に比例するトンネル領域においてQPCにも同じ周波数、位相の高周波電圧VQPC(t)を印加すると、QPCを流れる平均電流<IQPC>をロックイン検出することができる。<IQPC>は電流ピークもしくはディップとして観測され、2つの高周波電圧の位相差が0ºのときはキャパシタンスに比例し、90ºのときはコンダクタンスに比例する。ドットのゲート電圧を変化させながら<IQPC>を測定するとバックグランド成分を伴った電流ピーク(もしくはディップ)が現れる。バックグランドは素子構造で決まるキャパシタンス成分によるが、ピーク(ディップ)は電子のトンネリングによって生じたQDQD(t)に起因する。図1(b)はゲート電圧を変化させたときのキャパシタンス信号をプロットしたものである。ここでの動作周波数は1 kHzである。弱結合ドットに特徴的なハニカム型の電荷安定状態が見える。ドットがトンネル結合した領域では、ドット間の量子力学的結合を反映した量子キャパシタンスを測定することができる。図1(c)はドット間トンネル結合の大きさを変えたときのキャパシタンス信号の変化を示したものである。トンネル結合が小さくなるにつれて、ブロードなディップから鋭いディップへと変化する。量子キャパシタンスCQは、ゲート電圧VGに対してエネルギーEの二回微分(CQd 2 E / dVG2)として表されることから、観測されたディップ形状はエネルギーバンドの形状を反映していることが分かる。この量子キャパシタンスを測定することで1電子状態の結合・反結合軌道、2電子状態のスピン一重項・三重項状態を識別できることが期待される。
 本研究の一部は総務省SCOPEの援助を受けて行われた。

[1] T. Ota et al., Appl. Phys. Lett. 96 (2010) 032104.
 

図1  デバイスの模式図(a)、ドットのゲート電圧VURVULを変化させたときの<IQPC>のプロット(b)、
VUCを用いてドット間トンネル結合を変化させたときのCQの変化(c)。εは準位間のバイアスオフセット。

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