超伝導量子ビットと結合したLC共振器における非古典的光子状態の生成

角柳孝輔 齊藤志郎 中ノ勇人 仙場浩一
量子電子物性研究部

 量子演算に利用可能な量子状態を保持する量子メモリの実現のためには量子ビットから量子メモリへの量子情報の移送手段の確立と光子数状態(特に1光子状態)の生成が必要である。しかしながらLC共振器を共鳴条件にあるマイクロ波で励起する方法では、古典的なコヒーレント状態が生じ、光子数状態の生成は困難であった。そこで超伝導量子ビットからLC共振器に光子を移すことによって非古典的光子状態生成を試みた。
 用いた試料では超伝導磁束量子ビットを囲むように配置したラインインダクタとキャパシタからなるLC共振器が磁気的に量子ビットと結合している(図1)。量子ビットと共振器との結合エネルギーは360 MHzである。このように結合エネルギーを大きくすることが可能なことは超伝導量子ビットの利点の1つである。この量子ビット-LC共振器の系で、量子ビットを励起したのち非断熱的に磁場を動かす。LC共振器と量子ビット間での共鳴条件を使うことによって量子ビットの光子は量子ビットと共振器の間で真空ラビ振動と呼ばれる量子振動を生ずる。この振動を時間領域で制御し光子が共振器中に移った時に断熱的に磁場を戻すことで量子ビットから共振器への光子の移送が実現できる。この過程を繰り返すことによって量子ビットから光子を1個ずつ共振器に移すことが可能である。こうして生成した光子状態は理想的には光子数状態となる。この量子振動の周期は光子数に依存するので時間領域での振動の解析により共振器の光子数分布を調べることができる。
 図2はこの方法によって1個と2個の光子を共振器に入れた場合に得られた光子数の分布である。エネルギー緩和や制御パルスの不完全性などのために理想的な光子数状態とは異なるものの古典的な励起方法で生じ得るポアソン分布とは明確に異なる非古典的な光子状態生成に成功した[1]。この成果は、超伝導LC共振回路の量子性を積極的に利用したものであり、高Q共振器を用いた量子メモリの可能性への発展が期待される。

[1] K. Kakuyanagi et al., Appl. Phys. Express 3 (2010) 103101.
 

 
図1  LC共振器と磁束量子ビットの試料デザイン。
図2  1光子と2光子を移送した時に得られた光子数分布と
それぞれの平均光子数に対応するポアソン分布。

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