二硼化マグネシウムナノ細線による通信波長帯単一光子の検出

柴田浩行 武居弘樹 本庄利守 赤ア達志 都倉康弘
量子光物性研究部 量子電子物性研究部

 二硼化マグネシウム(MgB2)は、金属・金属間化合物の中で最も高いTc=39 Kを有し、2元素系で単純な結晶構造を持つことから次世代の超伝導材料として期待されている。これまでに我々は、MgとBの蒸着レートを各々精密に制御可能な分子線エピタキシャル成長(MBE)装置を用いるとMgB2の超薄膜が成長できること、アモルファスカーボンをレジストとして用いると高温成長を必要とするにも係わらずリフトオフ法が適応可能であることを報告してきた[1]。今回我々は、幅100 nm、高さ10 nmのMgB2ナノ細線を作製し、この細線は可視〜通信波長帯の広い波長域において単一光子を検出可能であることを明らかにした[2]。
 図1に作製したMgB2ナノ細線のAFM像を示す。均一なナノ細線が得られており、電気伝導特性も良好な超伝導特性を示す。ナノ細線にバイアスを加え極微弱なコヒーレント光を照射した測定の結果を図2に示す。一般的にコヒーレント光に含まれている光子数はポアッソン分布をしているため、極微弱光下において1パルス当り1個の光子が含まれている確率は平均光子数、すなわち光強度に比例する。したがって、1パルス当り1光子の検出が可能なナノ細線では出力パルス数と光強度は比例することが予想される。図2(a)より波長405 nmの光を照射した場合の結果は理論値(n=1)によく一致しており、この細線は単一光子数検出可能であることが判る。一方、波長1560 nmの通信波長帯では、低バイアス下において出力パルス数は光強度の二乗(n=2)に比例している。これは1560 nmでは光子1個の持つエネルギーが低いため1パルス当り1個の光子が含まれている場合は出力パルスが現れず、2個以上の光子が含まれている場合にのみ出力パルスが現れることを意味する。バイアスを上げると出力パルス数は光強度に比例(n=1)し、波長1560 nmにおいても単一光子検出可能であることが分かる。今後はMgB2ナノ細線を利用して量子情報通信用の単一光子検出器を作製する。
 本研究は科研費の援助を受けて行われた。

[1] H. Shibata et al., IEEE Trans. Appl. Supercond. 19 (2009) 358; H. Shibata et al., Physica C 470 (2010) S1005.
[2] H. Shibata et al., Appl. Phys. Lett. 97 (2010) 212504.
 

 
図1  MgB2ナノ細線のAFM像。
図2  MgB2ナノ細線の光検出特性(a) 405 nm、(b) 1560 nm。
Ibiasはバイアス電流、Icは臨界電流を表す。

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