結合機械共振器の反対称振動を用いた新しい電荷検出手法

岡本創 小野満恒二 山口浩司
量子電子物性研究部

 微小機械共振器による高感度な電荷検出が近年注目を集めている[1]。機械共振を用いた電荷検出は室温環境における高感度な検出を可能とする有用な手法として期待されるが、その一方で、共振器の振動そのものが測定対象に及ぼす影響(反作用)が問題となる。本研究ではこの問題を回避する新しい手法として、互いに結合したGaAs微小機械共振器の反対称結合振動を用いた電荷検出手法を提案する。固有周波数の等しい2つの機械共振器が連結した構造では共振器同士が互いに逆位相で振動する反対称振動モードが現れるが、このモードは2つの機械共振器を同時に励振した場合には励起されず、共振器の振動は互いにキャンセルされる。このような初期状態において一方の共振器に電荷が作用すると、GaAsの圧電効果により周波数のデチューニングが起こり、反対称振動モードの振幅が現れる。このデチューニングによる振幅変化を検出することにより、初期振幅の極めて小さな状態を用いた、反作用の少ない電荷検出が可能となる。
 実験に用いた素子はオーバーハングを介して機械的に結合した2つの両持ち梁[図1(a), (b)]である。梁はAlGaAs/GaAs超格子(上層)、n-GaAs(中層)、i-GaAs(下層)の3層を有し、梁上にはショットキー電極が蒸着されている。2つの梁は基板下に設置したピエゾアクチュエータにより同時励振される。一方、梁へのレーザ照射により生み出される熱応力を用いると、梁の固有振動数を調整し、梁同士の振動が完全に結合した状態を生み出すことができる[2]。今、梁上の電極とn-GaAs 層の間に電界がかかるとGaAsの圧電効果により梁の固有振動数は変化し、デチューニングが起こる[図1(c)]。これにより生ずる反対称振動モードの振幅変化をレーザ干渉計で検知することにより、梁に作用する微小な電荷を高感度に検出することが可能となる。我々はこの手法により、室温において147e/Hz0.5という高い電荷検出感度を得ることに成功した[図1(d)][3]。本手法は電荷検出のみならず質量検出にも適用可能であり、振動による反作用を抑えた新しい高感度検出手法として注目される。

[1] A. N. Cleland and M. L. Roukes, Nature 392 (1998) 160.
[2] H. Okamoto et al., Appl. Phys. Express 2 (2009) 062202.
[3] H. Okamoto et al., Appl. Phys. Lett. 98 (2011) 014103.
 

図1  (a) 結合機械共振器の模式図。(b) 結合機械共振器の光学顕微鏡像。(c) 反対称モードのDCデチュー
ニング電圧依存性。(d) 加振周波数753.5 kHzにおける電荷ノイズスペクトル。

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