ν = 5/2 分数量子ホール効果のスピン状態を解明

Lars Tiemann1, 2 Gerardo Gamez1 熊田倫雄1 村木康二1, 2
1量子電子物性研究部 2 科学技術振興機構

 自然界の基本粒子はフェルミ粒子とボーズ粒子に分類されるが、そのちがいは2つの同種粒子を入れ替えたときに波動関数の符号が変化するかどうかによる。一方、多数の粒子が互いに相関をもって運動することであたかも一つの粒子のように振舞うことがあり、これを準粒子というが、2次元では、フェルミ粒子ともボーズ粒子とも異なる振る舞いをする準粒子の存在が原理的に可能である。特に非アーベリアン準粒子といわれる、2つを入れ替えると元の状態と異なる縮退した別の基底状態に変わってしまうという特異な性質を持った準粒子が理論的に予想されており、それを用いるとエラー発生率の非常に低い、まったく新しい手法の量子計算(トポロジカル量子計算)が可能になることから、理論・実験の両面で大きな関心を集めている[1]。
 GaAs/AlGaAsなどの高純度半導体結晶のヘテロ界面に閉じ込められた電子(2次元電子)に低温で強い垂直磁場を加えたときに生じる分数量子ホール状態は、フェルミ粒子ともボーズ粒子とも異なる振る舞いをする準粒子をもつことが予想されている。特にランダウ準位占有率がν = 5/2の状態(5/2状態)[2]は、非アーベリアン準粒子の存在可能性が指摘され、大きな注目を集めている。しかしながら5/2状態は他の状態と異なり、その起源は明らかになっておらず、提案されている波動関数のうち実験[3]と矛盾しないものの中には非アーベリアン準粒子を伴わないものも含まれている。我々は、波動関数によって電子のスピン状態が異なることに着目し、抵抗検出核磁気共鳴法(図1)によって、5/2状態にある電子のスピンがすべて磁場の方向に揃っていることを明らかにした[4]。この結果によって、提案された波動関数のうち、実験と一致するものは非アーベリアン準粒子を伴うものに絞られる。

[1] C. Nayak et al., Rev. Mod. Phys. 80 (2008) 1083.
[2] R. L. Willet et al., Phys. Rev. Lett. 59 (1987) 1779.
[3] I. P. Radu et al., Science 320 (2008) 899.
[4] L. Tiemann, G. Gamez, N. Kumada, and K. Muraki, Science 335 (2012) 828.
 

図1  (a) 縦抵抗 (Rxx) のゲート電圧依存性。 (b) 6.4Tにおいて
測定したν = 2, 5/2, 5/3における75Asの抵抗検出NMR
スペクトル。挿入図は測定配置(左)と各νにおけるスピン
配置を示す。

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