シリコンフォトニック結晶スローライト導波路における光非線形性増強

松田信幸 原田健一 武居弘樹 倉持栄一 谷山秀昭 納富雅也
量子光物性研究部

 スローライト(SL)は物質中において群速度vg が極端に小さくなった光を指す。SL効果により、媒質を伝搬する光はその進行方向に圧縮され、また媒質との相互作用時間も増大する。これにより光-物質相互作用が増強されるため、光によって光の状態を高速に制御する全光情報処理デバイスの低消費電力動作が期待される。我々はこれまで、高いQ 値(100万程度)のSiフォトニック結晶(PC)共振器を大規模に連結し、チップ集積および通信波長帯での広帯域動作が可能なSL導波路を実現した[1]。今回我々は、前記PC-SL導波路における3次非線形光学効果を用いた全光波長変換実験を行い、減速効果による波長変換効率の増強に成功した[2]。
 図1に示すSi-PC共振器結合型SL導波路(vg = c/36, 長さ0.42 mm)へ通信波長帯のポンプ光とシグナル光を入射し、コア媒質(Si)との相互作用による四光波混合過程を通じて生成される新たなアイドラ光が、SL帯域内で発生することを確かめた。また、シグナル光からアイドラ光への波長変換効率がポンプ光強度の二乗に比例することを確認し、本過程がポンプ光の二光子励起に伴う四光波混合過程によることを確認した(図2)。このグラフの傾きより、デバイスの非線形性の指標である非線形定数γ の値として18,600 /W/mを得た。この値は単一モード光ファイバの107倍である。一方、同様の導波路閉じ込め断面積を有するSi細線導波路[3](vg = c/4.2)ではγ =300 /W/mが、従来型のSi-PC 格子シフト型SL導波路[4](vg = c/30)ではγ = 2,930 /W/mがそれぞれ報告されている。本デバイスのγ が極めて大きい理由として、SL効果によりγ が(1/vg)2に比例して増大することと、PCナノ共振器ベースの導波路を用いたことによる強い空間モード閉じ込めの寄与が挙げられる。四光波混合による光波長変換効率はγ 2に、また光カー効果による非線形位相シフトはγ にそれぞれ比例することから、PC共振器結合型SL導波路が高効率な全光信号処理デバイスとなる可能性が示された。
 本研究は科研費の援助を受けて行われた。

[1] M. Notomi, E. Kuramochi, and T. Tanabe, Nature Photon. 2 (2008) 741.
[2] N. Matsuda et al., Opt. Express 19 (2011) 19861.
[3] K. Harada et al., IEEE J. Sel. Top. Quantum Electron. 16 (2010) 325.
[4] C. Monat et al., IEEE. J. Sel. Top. Quantum Electron. 16 (2010) 344.
 

 
図1  シリコンフォトニック結晶結合共振器光導波路。
図2  四光波混合によるシグナル光から
アイドラ光への波長変換効率。

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