酸化グラフェン表面で実現するラベルフリータンパク質検出

古川一暁 上野祐子
機能物質科学研究部 マイクロシステムインテグレーション研究所

 酸化グラフェン(GO)は、グラフェンの炭素間二重結合の多くが切断され酸素と結合した材料である。GOはグラフェンと同様に原子レベルの薄いシート状の構造をもつが、絶縁性や水への高い分散性、強い蛍光消光機能など、グラフェンとは異なる特性を発現する。我々はこれらのGOの特長を利用して、GO表面にタンパク質をラベルフリーで認識し検出する機構を構築した[1]。
 GOは固体基板に固定して用いた。GO表面に残存するグラフェン様のsp2ドメインに、ピレンをリンカーに用いて先端に蛍光色素(FAM)が結合したDNA鎖アプタマを結合させた(図1上)。ここでアプタマとは特定の分子と選択的に立体構造を形成する塩基配列をもつDNAで、本実験では血液凝固に関連するトロンビンというタンパク質を認識するアプタマを用いた。
 通常は1本鎖DNAとGOとの強い親和性により、修飾分子全体がGO表面に吸着しており、FAM色素からの発光はGOにクエンチされている。トロンビン存在下では、アプタマ部位がこれと3次元的な立体構造を形成するため、アプタマ先端の色素がGO表面から離れ、クエンチを免れた発光が観測される(図1下)。この機構は、GO単一片を用いて実験的に確認した。蛍光顕微鏡観察から、トロンビン添加後にGO表面のみから蛍光が検出されることを確認し、ラベルフリーなタンパク質検出を実証した(図2上段)。このとき、GOの膜厚は約2.9 nm増大することが、同一のGO片を対象にした原子間力顕微鏡観察により示された(図2下段)。今後、アプタマの変更による他種タンパク質の検出や、分子設計による高感度化に取り組み、GO表面をバイオセンシングのプラットフォームに利用する研究分野を開拓する。

[1] K. Furukawa et al., J. Mater. Chem. B 1 (2013) 1119.
 

図1  酸化グラフェン表面の化学修飾と検出機構の模式図。
図2  トロンビン添加前後における蛍光顕微鏡像(上段)と原子間力顕微鏡像(下段)。

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