グラフェンにおけるプラズモン伝導の時間分解測定

熊田倫雄 田邉真一 日比野浩樹 鎌田大 橋坂昌幸 村木康二 藤澤利正
量子電子物性研究部 東京工業大学

 プラズモンとは電荷の集団運動であり、同じ周波数をもつ電磁波の波長より小さい領域(数10 nm)に閉じ込めることができるという特徴を持っている。特に、グラフェンにおけるプラズモンは、その伝搬特性がゲートなどにより変調できると考えられ注目されている。本研究では、強磁場下でグラフェン端に局在して伝搬するエッジマグネトプラズモンの伝搬速度を測定し、2桁に渡って制御可能であることを明らかにした[1]。
 実験で用いたグラフェンはSiC上に成長されたものである。グラフェン全面を覆うようなゲートがあるものとないものの2種類の試料を用いた。測定温度は1.5 Kである。プラズモンは入射ゲートに電圧ステップを印可することにより入射され、1.1 mm離れたところに作製されたオーミック電極を通して検出される[図1(a)]。プラズモンを入射してから検出するまで時間を100 psの時間分解能で計測することにより、プラズモンの伝搬速度を決定できる。図1(b)はグラフェン全面を覆うようなゲートがない試料で測定したプラズモン伝搬速度の磁場依存性である。磁場を増加させていくと伝搬速度は約6000 km/sから2000 km/s程度まで減少していく。一方、グラフェン全面を覆うようなゲートがある試料では、伝搬速度は100 km/s程度であり1桁小さな値となっている[図1(c)]。これは、ゲート電極によりプラズモンの電場が遮蔽されているためである。また、一定磁場下(12 T)においてゲートに負の電圧を加え電子密度を減少させていくと、速度は数100 km/sから数10 km/sまで振動しながら小さくなっていく。以上の結果により、グラフェンにおけるプラズモンの伝搬速度は磁場、ゲート電極による遮蔽効果、電子密度を変化させることにより、2桁に渡って制御可能であるといえる。
 本研究は科研費の援助を受けて行われた。

[1] N. Kumada et al., Nature Commun. 4 (2013) 1363.
 

図1  (a) 試料構造および測定方法。(b) グラフェン全面を覆うゲートがない試料で求めたプラズモン伝搬速度の磁場依存性。(c) グラフェン全面を覆うゲートがある試料で求めた12 Tにおけるプラズモン伝搬速度のゲート電圧依存性。

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