量子ビットのコヒーレント制御における原理的な限界

井桁和浩
量子光物性研究部

 物質量子ビットをコヒーレント電磁場で制御することは、量子情報処理システムにおける最も有望な要素技術であると考えられる。通常、古典電磁場理論を適用して、パルス面積定理に従ったブロッホ回転として量子ビットを完全に制御する事ができている。しかしながら古典電磁場というものは、無限強度の極限にすぎず、実際に得られるのは、強くても有限な強度のコヒーレント場であり、その有限性に起因した制御エラーは避ける事ができない。
 本研究では、任意のコヒーレントな純粋状態と、混合状態も含めた任意の1量子ビットとの相互作用を完全に量子力学的に取り扱う理論を構築した。π/2パルス制御に伴うエラー(フィデリティエラー)は、既に報告されていたように[1、2]、制御場の平均光子数に反比例した。一方、得られた結果(図1)から、エラーの大きさは、量子ビットの初期状態に依存するという、既存の研究には見られない結果が得られた。我々の結果は、原理的な制御エラーは、制御場と量子ビットとの間に生じるエンタングルメントが原因であることを示している[3]。
 本研究の一部は科学技術振興機構CRESTの援助を受けて行われた。

[1] J.Gea-Banacloche, Phys. Rev. A 65 (2002) 022308.
[2] M.Ozawa, Phys. Rev. Lett. 89 (2002) 057902.
[3] K. Igeta, N. Imoto, and M. Koashi, Phys. Rev. A 87 (2013) 022321.
 

図1  量子ビットの初期状態が上準位および下準位であった場合のフィデリティエラーを、制御場の平均光子数Nに対し対数表示した(実線)。N が大きい場合の漸近曲線(1/N に比例)および、関連研究[1、2]の結果を破線で示す。

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