超伝導永久電流アトムチップにおける
ボース・アインシュタイン凝縮の生成

今井弘光 稲葉謙介 山下眞 向井哲哉
量子光物性研究部

 冷却原子気体を電磁場で操作し、量子情報処理や量子計測などの研究に応用する試みが近年精力的に進められている。なかでも、超伝導永久電流アトムチップは強く安定したポテンシャル中に原子気体を閉じ込めることを可能とし、原子の状態を量子的に制御するための優れたデバイスとして期待されている[1、2]。我々は、チップ上に捕捉された87Rb原子気体に蒸発冷却を行うことで、ボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)を生成することに成功した。これにより、超伝導永久電流アトムチップを用いて量子メモリや原子波干渉計といった量子技術を開発する道が拓けた。
 凝縮体生成の実験は、図1のように永久電流の磁場とバイアス磁場とによって作られるポテンシャルでRb原子を捕捉して行った。凝縮の確認は、蒸発冷却後に原子を磁場ポテンシャルから解放し、飛行時間(TOF)法による原子の運動量分布を測定することで行った(図2)。 図2(a)と(b)は、蒸発冷却の最終掃引周波数vf が1.770 MHzのときに得られたTOF画像と光学密度である。図2(a)と(b)で示されている広い分布は、原子雲が凝縮していない熱原子の状態であることを示している。vf が1.750 MHzのときには、BECを示す狭い分布と熱原子の分布の2つの運動量分布が現れておりBECに相転移したことを示している[図2(c)、(d)]。さらにvf を1.735 MHzまで掃引すると熱原子は観測されなくなくなり、ほぼ純粋なBECが得られていることがわかる[図2(e)、(f)]。
 本研究は最先端プログラム、科研費(新領域)、JST-CRESTの援助を受けて行われた。

[1] T. Mukai et al., Phys. Rev. Lett. 98 (2007) 260407.
[2] C. Hufnagel et al., Phys. Rev. A 79 (2009) 053641.
 

 
図1  超伝導アトムチップ上に捕捉された原子の模式図。
図2  15 ms後のTOF画像(上図)とその画像内の点線に沿った光学密度(下図)。

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