量子ドットナノ共振器による光通信波長帯における高速単一光子発生

Muhammad Danang Birowosuto1 倉久史1,2 松尾慎治2,3 谷山秀昭1,2 納富雅也1,2
1量子光物性研究部 2ナノフォトニクスセンタ 3フォトニクス研究所

 通信波長帯と呼ばれる波長1.55 µm帯の光は、光ファイバ中の損失が少なく長距離の光伝送が可能である。そのため、光ファイバを介した将来の量子情報通信ネットワークにおいて波長1.55 µm帯で動作する単一光子光源は必要不可欠である。そのため近年、光共振器と結合したInAs/InP量子ドットが高輝度かつ高速な単一光子光源として注目されている[1]。また、InP光ホーン内に置かれた単一InAs量子ドットから、波長1.55 µm、発光寿命1.12 nsの単一光子発生が報告されている[2]。しかし、光共振器と結合した量子ドットからの通信波長帯単一光子発生は未だ報告されていない。
 そこで我々はInPフォトニック結晶ナノ共振器と結合したInAs/InP量子ドットをもつデバイスを作製し、高輝度で高速な通信波長帯単一光子発生を実証した[3]。このデバイスでは量子ドット中で励起子よりも速い発光を示す励起子分子とナノ共振器を結合させた。そのフォトルミネッセンス(PL)スペクトルの温度依存性を図1に示す。共振器は線欠陥幅変化型共振器で共振器由来のPL線幅から求めた共振器Q 値は2000であった。試料の温度を変化させることで、励起子分子の波長を調整した。その結果、試料温度が22 Kのとき、量子ドットの励起子分子と共振器の波長が一致し、発光強度は増大した。このとき、図2に示すように励起子分子の発光は共振器によるパーセル効果によって加速し、発光寿命は離調時の1 nsに比べて5倍速い0.2 nsとなった。また同時に光子相関測定を行ったところ、発光はアンチバンチング特性を示し、g(2)(0)は0.1であった。以上より、フォトニック結晶共振器によって量子ドット励起子分子からの単一光子発光強度および発光レートは増大することが実証された。
 このような通信波長帯における高輝度で高速な単一光子発生デバイスは、将来の量子情報通信ネットワークにおいて高速な信号転送を可能にすると期待される。

[1] A. J. Shields, Nature Photon. 1 (2007) 215.
[2] K. Takemoto et al., Appl. Phys. Express 3 (2010) 092802.
[3] M. D. Birowosuto et al., Sci. Rep. 2 (2012) 312.
 

図1  量子ドットナノ共振器のPLスペクトル温度依存性。X、XXはそれぞれ励起子、励起子分子の発光線を示す。
図2  時間分解量子ドット発光。22 Kで、共振波長と量子ドット発光波長が一致している。挿入図は22 Kのときの発光のアンチバンチングを示す。

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