シリコン上に成長したEr-Tmシリケイトからの
第2および3通信波長帯での同時発光

尾身博雄1,3 Maria Anagnosti1 俵 毅彦2,3 
1機能物質科学研究部 2量子光物性研究部 3NTTナノフォトニクスセンタ

光ファイバ通信におけるデバイスの微細化およびコスト低減への強い要請を背景に、高効率なシリコンレーザの研究開発が活発に行われている。その一例として、光ファイバ通信に必要なレーザの動作波長であるC帯およびその隣接帯(1530-1565 nm)で発光する分離した2つのドーパントからの異なる2波長の同時発光を利用して波長の異なる2つのレーザを1つのレーザとして機能させる研究が進められ、実際に、ErとTm、Nd、Yb、Hoの発光を使った2波長レーザを作製した例が報告されている。しかし、通信波長帯での2波長レーザおよび広帯域光導波路型増幅器をシリコン基板上で実現するためのEr-Tm共添加ホスト結晶の報告はほとんどなかった。

我々は、Si基板上に形成した多結晶ErxTm2-xSiO5とErxTm2-xSi2O7中に含まれるTm3+イオンから波長が1300-1470 nm、Er3+イオンから波長が1530 nmのシャープな発光を同時に観測することに成功した(図1)。また、この多結晶中のEr3+イオンが1530 nmの発光だけでなく、Tm3+イオンの1300 nmの発光の感光材としても機能していることを示した(図2)。さらに、励起波長が532 nmのとき、Er3+とTm3+イオンの高いエネルギー準位間で起こる共鳴的なエネルギー移動によりOとS+C帯での同時発光が起こること、励起波長が785 nmのとき、SとC帯の2波長帯でシャープに同時発光することを明らかにした。

本成果は、Er-Tmシリケイト混晶膜の形成が、C帯の広帯域化に有効であるだけでなく、OとS+C帯での同時発光も実現する可能性を示しており、今後、結晶成長条件の最適化、発光効率の改善によりシリコン基板上での2波長帯レーザ素子、導波路型光増幅器の作製に繫がると期待される。

[1]
M. Anagnosti, H. Omi, and T. Tawara, Opt. Mat. Express 4, 1747 (2014).

図1 Si上に成長したEr2xTm2-2xSiO5とEr2xTm2-2xSi2O7膜からのPLスペクトル。

図2 Tm3+とEr3+のエネルギーレベルと可能な遷移。