一次元フォノニック結晶の動的制御

畑中大樹1 Imran Mahboob1 小野満恒二2 山口浩司1 
1量子電子物性研究部 2機能物質科学研究部

フォノニック結晶(PnC)は異なる弾性体の周期構造により構成された人工結晶である。この周期構造に起因するフォノニックバンドギャップ効果を介して、音や振動、熱等のフォノンの空間制御が可能になる[1]。近年、フォノンの学術的・産業的有用性をさらに高めるために、フォノンを制御キャリアとして活用する新しいフォノニック情報処理デバイスの研究が活発化している。その実現には、PnCによるフォノンの空間制御技術に加え、動的制御技術の確立も必要不可欠となる。しかしながら、これまで提案されたほぼ全てのPnCは受動的な特性のみを示し、伝搬特性をその外部操作により変調可能な動的制御特性を有していなかった。この問題を解決するために、我々は電気的に弾性特性の変調が可能な電気機械振動子を単位素子に用いた一次元PnC導波路を作製し、フォノン伝搬の動的制御性を実現した [2]。

一次元PnCは、GaAs (5 nm)/Al0.27Ga0.73As (95 nm)/Si-GaAs (100 nm)ヘテロ構造薄膜を有する電気機械振動子の一次元アレイより構成されている。さらに、その導波路内には、フォノンの動的制御を実現するための制御用機械振動子が、隣接する機械振動子間の間隔を広げることによって導入されている[図1(a)]。この一次元PnC構造は、導波路上に配置した周期孔から希フッ化水素酸溶液を流し込み、犠牲層[Al0.65Ga0.35As (3 µm)]をエッチングすることによって形成されている。導波路右端の金電極に周波数5.74 MHzの交流電圧を印加すると、圧電効果によって弾性振動(フォノン)が誘起される。発生したフォノンは制御用機械振動子を通って導波路を伝わり、導波路左端に到達する[図1(b)の破線]。同時に、制御用機械振動子へ周波数1.86 MHzの交流電圧を印加すると、引き起こされる強い局所的な振動によって非線形弾性効果が誘起される。この結果、導波路上のフォノンの伝達特性が変調され、導波路左端で周波数5.74 MHzのフォノンが観測されなくなる[図1(b)実線]。

この一次元PnC導波路によって、フォノンの動的制御が可能となり、フォノンを制御キャリアに用いた新しい高機能フォノニック信号処理デバイスの実現が期待できる。

本研究は科研費の援助を受けて行われた。

[1]
M. Maldovan, Nature 503, 209 (2013).
[2]
D. Hatanaka et al., Nature Nanotech. 9, 520 (2014).

図1 (a) 制御用機械振動子を含む一次元PnC。(b) 導波路を進行するフォノンの制御用機械振動子によるスイッチング。