異なった量子系を結合させてハイブリッド系を構築する手法は、それぞれの系における長所を利用できるため、量子コンピュータ実現のための有望な方法である。超伝導磁束量子ビットとダイヤモンド中のスピン集団の結合は、そのようなハイブリッド素子のひとつである[1-3]。超伝導磁束量子ビットはプロセッサとして、スピン集団はメモリとしての役割を果たすことが期待されている。この系においては、起源が不明な長寿命状態が実験的に観測されることが知られていた[1, 2]。長寿命な状態は、その起源がわかればメモリとして使うことができるが、理論的になぜこのような長寿命状態が現れるかは明らかにされていなかった。
我々はこの長寿命状態の起源を理論的に解明し、この状態がダイヤモンド中のダーク状態であることを示した[4]。ダーク状態は弱めあう量子干渉効果をもつため量子ビットとの結合が小さく、その状態から生じる信号を実験で検出することは一般的には難しい。我々は、超伝導・ダイヤモンドのハイブリッド系においては、環境からのランダム磁場とダイヤモンド結晶の歪みにより、そのような弱めあう量子干渉効果が低減され、通常は検出の難しいダーク状態の観測が可能になっていることを示した。さらに実験的に、このダーク状態の寿命が150 ns程度であることを示した。従来の手法ではダイヤモンド中のスピンの寿命は20 ns程度であったため[3]、ダーク状態を量子メモリとして利用することができれば、寿命を7倍程度改善することが可能となる。本成果は超伝導量子ビット用の長寿命量子メモリ実現に向けた第一歩である。本研究はFIRSTおよびNICTの援助を受けて行われた。