光子を用いたスケーラブルな量子情報処理システムの実現のため、その要素素子を光チップ上へ集積化する研究が注目を集めている。特に光導波路技術を用いることで、バルク光学素子を用いた自由空間光学系では得ることが困難な、微小な素子サイズおよび高安定な光子干渉計を利用することができる。これまで、光子発生源[1]、光量子演算回路[2]、単一光子検出器[3]のそれぞれの素子について独立にチップ上への実装が行われてきた。今後はこれら素子の間の集積・相互接続が重要となる。今回、量子相関光子対の発生素子と、それら光子を分離し次段の量子回路へ接続するためのインターフェースとを兼ね備える回路を一つのシリコン基板上に実現した[4]。
図1(a)に回路の模式図を示す。量子相関光子の発生には、シリコン導波路中の自発四光波混合過程を用いる。シリコン導波路の高い光非線形性により、光通信波長帯の励起パルスを入射させることで、周波数非縮退の光子対が効率的に発生する。この光子対は、次段のアレイ導波路回折格子(AWG)によって異なる出力導波路へと波長分離[図1(b)]される。光子対源以外の部分における雑音光子の発生を抑制するため、AWGのコアとして光非線形性の極めて小さな石英系材料(SiOx)を用いた。本素子は、シリコンと石英という二つの異なるコア材料からなり、異種導波路モノリシック集積技術[5]を用いて単一のシリコン基板上に作製された。この素子を用い、チップ上で量子相関光子対の発生と分離を行うことに成功した[図1(c)]。また、AWGを構成するSiOx導波路においては余分な雑音光子が全く発生していないことが確認された。
AWGの出力導波路を接続インターフェースとして用いることで、光量子演算回路へのオンチップ集積が可能である。また、本素子は、量子暗号通信のためのコンパクトな光子対発生装置としても用いることができる。