単一アト秒パルスを用いた内殻電子の運動計測

増子拓紀 山口量彦 小栗克弥 後藤秀樹 
量子光物性研究部

我々は、より高速な物理現象を探索し、従来より高速で動作する光スイッチの動作原理へと繋げるため、アト秒(10-18秒)という世界最短級のパルス幅をもつパルスレーザ発生技術と、それを用いた超高速物理現象の計測技術の研究を進めている。電子は、「外殻電子」と「内殻電子」に分類でき、「内殻電子」は通常、光情報処理デバイス等で利用している「外殻電子(=価電子)」よりも1桁以上高いエネルギーを持ち、その運動(双極子応答)も100万倍〜10億倍高速である。従って、「内殻電子」の動きを正確に計測し、自在に操ることが可能となれば、極めて高速な光情報処理技術の動作原理に繋がる可能性がある。

我々がもつ世界最短級の単一のアト秒パルス発生技術と、スペクトル位相干渉法を組み合わせることで、高速な挙動をもつ「内殻電子」のダイナミクスを観測することに成功した。図1に入力する単一アト秒パルスにより誘起されたネオン原子中の内殻電子が作る双極子応答を示す。この双極子応答により発生する光放射と単一アト秒パルスとのスペクトル干渉波形を計測することで、双極子の振動周期・位相・緩和時間といった電子運動を決定することができる。結果として、緩和時間は35 fs(10-15秒)と求められ、これは外殻電子(価電子)が通常もつns(10-9 秒)の緩和時間よりも、100万倍以上高速である。また、双極子の振動周期はわずか90 asである。本結果は、原理上、10 PHz (1015 Hz)以上の超高速応答デバイスを実現できる可能性を示唆しており、半導体材料中においても内殻電子の応答を観測・操作することが実現すれば、新たな物性研究に大きく貢献するものと期待される。

[1]
H. Mashiko, T. Yamaguchi, K. Oguri, A. Suda, and H. Gotoh, Nature Commun. 5, 5599 (2014).

図1 単一アト秒パルスを用いたネオン原子中における内殻電子の双極子応答の計測結果。