ナノアンテナに結合したナノワイヤにおける発光増強

小野真証1,3 倉持栄一1,3 Guoqiang Zhang1 角倉久史1,3 原田裕一2 David Cox4 
納富雅也1,3 
1量子光物性研究部 2量子電子物性研究部 
3NTTナノフォトニクスセンタ 4National Physical Laboratory, U.K.

低消費で小型、かつ高速な光デバイスには活性領域の小さな量子ドットやナノワイヤ等のナノ発光体は良い候補である。一方で、そのサイズの小ささから光と効率的に相互作用させることは難しい。そこで、我々は光の回折限界を破るプラズモニクスに注目し、bowtie型のナノアンテナによる光物質相互作用増強の実現を目指して研究を進めてきた。bowtieナノアンテナのモードは数十nmの領域に局在しており、ナノ発光体との親和性は高い。しかしながら、その小さな領域へナノ発光体を正確に配置することは困難であり、多くの報告で発光体は単に構造上に分散されているに留まっていた[1]。本研究では、集束イオンビーム装置内に組み込んだナノマニピュレータを駆使することによって単一InPナノワイヤを金のbowtieナノアンテナのギャップ部に配置し、結合系を作製することに成功した[図1(a)]。さらに、作製した結合系において大きな発光増強を観測した[2]。

ナノアンテナは熱酸化Si基板上に作製した。その後、電子顕微鏡観察下でナノマニピュレーションによって単一ナノワイヤをナノアンテナのギャップ部に配置した[図1(b)]。光学特性は80 Kにてフォトルミネッセンス(PL)測定によって評価した。励起波長は636 nmとし、発光波長は875 nmであった。図2はPLの強度マップを示しており、ここでは、励起、発光の偏光成分をそれぞれ分解した。E(E//)はナノアンテナに対して垂直(平行)な偏光である。また、PL強度(I)はナノアンテナから離れた点Rでの強度(IR)で規格化されている。黒破線は励起、検出ともにE偏光のときに得られたPL強度であり、赤実線はE//偏光のときのものである。アンテナ位置でのI/IRE偏光に対してほぼ1であったが、E//偏光に対しては6.1であった。この結果はナノアンテナによって発光が大きく増強されていることを示している。励起レーザ径がアンテナモードよりも大きいことを考慮すると、アンテナ部での増強度は110倍に上ることがわかった。得られた増強度は励起と発光の増強が重畳されることによって与えられており、数値解析結果も実験結果と良い一致を示した。さらに数値解析においては、ナノワイヤとナノアンテナの相互作用が増強度をさらに増大させていることを示す結果が得られた。本研究ではサブ波長のナノワイヤをサブ波長のナノギャップへ正確に配置する技術を確立し、プラズモニック構造を有効に活用することで発光増強の実現に成功した。

[1]
A. Kinkhabwala et al., Nature Photon. 3, 654 (2009).
[2]
M. Ono et al., 2014 IEEE Photonics Conference, WH2.1 (2014).

図1 (a) 試料構造。(b) 作製試料のSEM像。ここでは、直径60 nm、長さ7 µmのナノワイヤを配置した。

図2 PL強度分布。挿入図はSEM像であり、アンテナ位置とリファレンス位置を表示。