グラフェンへの歪み印加 - グラフェンの歪みエンジニアリングに向けて

髙村真琴1 日比野浩樹1,2 山本秀樹1 
1機能物質科学研究部 2関西学院大学 

 グラフェンの電子物性を歪みにより制御する、"歪みエンジニアリング"が理論提案され、グラフェン電子デバイスへの応用が期待されている。しかし実際に歪みを制御するのは容易ではない。我々は、SU-8レジストの熱収縮を利用することでグラフェンへの引張り歪みの印加と制御が可能であることを提案し、ラマン分光測定よりそれを実証した[1]。
 SU-8レジストは、300℃以上で酸素や水素の解離が起き、10~20%収縮する。この現象を利用することでグラフェンへの引張り歪み印加が可能である。さらに、サンプルの構造を工夫することで、歪みのデザインが可能になる。たとえば、基板に転写したグラフェンに対してはレジスト近傍への局所的な引張り歪みの印加が可能である。基板上のグラフェンの端部にレジストバーを配置したサンプル[図1(a)]を加熱すると、SU-8の収縮によりレジスト間のギャップが拡がり[図1(b)、(c)]、グラフェンのラマンピークが低波数側にシフトする。これはグラフェンに引張り歪みが印加されたことを示している。ピーク位置の分布[図1(c)]とそのシフト量[図1(d)]から、レジスト端から1~2 µmの範囲のグラフェンにのみ約0.2%の引張り歪みが印加されていることが明らかになった。また、レジストバー間にグラフェンを架橋させたサンプル[図2(a)]では、約3倍の大きさの引張り歪みが全体に印加されている [図2(b)]。これは、グラフェンと基板の相互作用がなくなるためである。本方法を用いることで、グラフェンの電子物性制御が歪み印加により可能になると期待される。

(左)図1 (a) SiO2/Si基板上のグラフェン模式図。 (b) 加熱前 と (c) 300℃で加熱後の グラフェンの光学顕微鏡像とラマンピーク位置のマッピング。 (d) 加熱前後のラマンスペクトル。 (右)図2 (a) 架橋グラフェン模式図。(b) 加熱前後のラマンスペクトル。シフト量は図1(c)の約3倍。