単電子フィードバック制御によるシリコンナノトランジスタ中の熱ゆらぎの抑制

知田健作 西口克彦 山端元音 田中弘隆 藤原 聡
量子電子物性研究部

 フィードバック制御は制御対象を測定し、その結果をもとに出力を制御し、所望の状態を実現する制御手法である。たとえば、エアコンは部屋の温度を測定し、その結果をもとに出力を制御し、部屋の温度を一定に保っている。もしエアコンが部屋の温度を正しく測定できなければ、部屋の温度を一定に保つことはできない。
 本研究では、単電子を検出できるシリコンナノトランジスタを用いて単電子を制御対象としたフィードバック制御を行った。シリコンナノトランジスタは電子浴、単電子箱、検出器によって構成され(図1)、検出器電流Idを測定することで、電子箱内電子数nを電子1個の精度で測定できる。単電子は電子浴と単電子箱の間を熱によって絶えずランダムに運動(熱ゆらぎ)しており、nは図2(a)に示すように、ある値(n = 0)を中心にランダムに増減する[1]。測定されたnの値をもとに、電子浴電位Vresを制御し nを一定の値に保つこと、すなわち、熱によるnのゆらぎを抑制することを試みた。nが所望の数よりも多いときはVresを正に変調して電子を供給し難く、所望の数よりも少ないときはVresを負に変調して電子を供給し易くした。その結果、フィードバック制御を行っていない場合[図2(a)]に比べて、熱によるnのゆらぎを約60%低減(nの分散σの大きさを1.5から0.5に低減)することに成功した[図2(b)][2]。 本研究で実現された単電子のフィードバック制御は、単電子ポンプのエラー訂正や電子デバイス中でのマクスウェルの悪魔の実現[3]などへの要素技術として応用できる。
 本研究の一部は最先端・次世代研究開発支援プログラムの助成を受けて行われた。

図1 単電子フィードバック制御実験の模式図。検出器電流Idを用いて単電子箱内電子数nを求め、nに基づいて電子浴電位Vresをフィードバック制御する。 図2 フィードバック制御による熱ゆらぎの抑制。(a) フィードバック制御なしのときに観測される熱ゆらぎ。(b) フィードバック制御によって抑制された熱ゆらぎ。