光照射を用いた室温における機械振動モード間の結合制御

太田竜一1 岡本 創1 Rudolf Hey2 Klaus-Juergen Friedland2 山口浩司1
1量子電子物性研究部 2Paul-Drude-Institut für Festkörperelektronik

 多数の連結された機械振動子は複数の機械振動モードを有しており、これら振動モード間での振動転送を制御することで機械論理回路や音響メタマテリアルが実現すると期待されている。振動転送の制御にはモード間の結合制御が必要であり、特にモード間の結合係数が各モードの減衰定数を上回る強結合状態では、系の応答速度が減衰定数ではなく結合係数により支配されるため高速な振動転送制御が可能となる[1]。我々はこれまでに圧電効果を用いた電気的な手法により低温環境下で2つの機械振動子における強結合状態の創出とその結合制御に成功していた。しかし、これまでの電気的な手法ではモード間の結合係数が十分に大きくなく、その利用範囲は減衰定数が大きく低下する低温環境に限られていた。今回、我々は光照射による熱膨張効果を用いることで結合係数が既存手法に比べ飛躍的に大きくなることを見出し、その結果、室温において2つの振動モード間での強結合状態とその結合制御に成功した[2]。
 図1(a)に2つの振動子の顕微鏡像、図1(b)にその振動モードを示す。本構造はGaAsとAlAsの超格子構造を含む半導体薄膜基板に形成されており、対称・反対称の2つの振動モードを有している。本素子に波長780 nmのレーザ光を照射するとGaAs層で光吸収による熱膨張が起こり、その結果内部応力が生じる。このレーザ光の強度を振動モード間の差周波で変調することにより2つの振動モード間で内部応力を介した動的な結合が生まれる。図1(c)に振動スペクトルのレーザ光変調周波数依存性、図1(d)にレーザ光変調振幅依存性を示す。変調周波数がモード間の差周波となる付近で振動スペクトルに明瞭なモード分裂が観測された。結合係数はレーザの変調振幅を変えることで制御可能であり、最大値として2.57 kHzが得られた。この値は室温における2つの振動モードの減衰定数 (2.14 kHzと1.59 kHz)を超えており、振動モード間の強結合状態が室温において達成された。
 本研究は科研費の援助を受けて行われた。

図1 (a) 2つの機械振動子の顕微鏡像。(b) 有限要素法で得られた結合モードの模式図。上側は対称モード、下側は反対称モードを示す。(c) 振動スペクトルのレーザ光変調周波数依存性。点線は結合振動子モデルから求まる振動モードのピーク周波数を示す。(d) 振動スペクトルのレーザ光変調振幅依存性。