各研究部の研究概要

機能物質科学研究部
山本秀樹
 機能物質科学研究部(物質部)では、原子・分子レベルで物質の構造を制御することにより、新しい物質や機能を創造し、物質科学分野における学術貢献を行うとともに、情報通信技術に大きな変革を与えることを目指しています。
 この目標に向かって、3つの研究グループが、広範囲な物質を対象として研究を進めています。その範囲は、GaAsやGaNをはじめとする化合物半導体から、グラフェンなどの2次元構造物質、酸化物高温超伝導体、さらには、神経細胞などの生体物質に至り、高品質薄膜成長技術や、物質の構造と物性を精密に測定する技術をベースに、理論的なアプローチも取り入れて最先端の研究を推進しています。
 この1年では、特性の良い深紫外発光素子作製の基礎技術となる無極性面AlNヘテロエピタキシャル層の表面形態の制御、面内で数ミリメートルのサイズを持つグラフェン単結晶の作製、高温超伝導体薄膜では初の量子振動の観測などを実現しました。また、導電性を有し、生体適合性が高いシルクゲル薄膜を創製し、その上で細胞のマニピュレーションや細胞への電気刺激を行う新たな手法を開拓しました。さらに、東レグループとの協業により、機能素材hitoe®を用いた電極・リード線の一般医療機器登録を達成し、医療分野での実用化へ歩みを進めました。
量子電子物性研究部
藤原 聡
 量子電子物性研究部(物性部)では、半導体、超伝導体、そして異種材料ハイブリッド系の新規物性を開拓し、将来のICT社会に大きな変革をもたらす固体デバイスの創出を目指しています。高品質薄膜結晶の成長技術やナノメートルスケールの微細加工技術などベースとなる「ものづくり」技術を軸として、単電子、メカニクス、量子、電子相関、スピンなどの新しい自由度に基づく物性の探索を行い、それらを利用した低消費電力デバイス、量子情報処理デバイス、高感度センサなどの革新・極限デバイスの開発に挑戦しています。
 今年度は、シリコンナノトランジスタを用いた世界最高精度を持つギガヘルツ高速単電子転送、超伝導磁束量子ビットを用いた巨視的非実在性問題の実験的検証に成功しました。また、電気機械共振器の擬イジング結合、超伝導量子ビット集団と超伝導共振器のコヒーレント結合など新しい機能につながる結合物理系の探索を進めるとともに、二次元トポロジカル絶縁体の特性向上へ向けた歪みヘテロ構造の最適化、グラフェンを用いた電子エミッタや液体ゲートトランジスタの動作など新規材料の研究で進展がありました。
量子光物性研究部
後藤秀樹
 量子光物性研究部(量光部)は光通信技術や光情報処理技術に大きなブレークスルーをもたらす革新的基盤技術の提案、ならびに、量子光学・光物性分野における学術的貢献を目指して研究を進めています。
 量光部のグループでは、半導体量子ドットやナノワイヤなどのナノ構造における光物性研究、極微弱な光の量子状態制御と量子情報への応用、高強度極短パルス光による新物性探索、超音波やフォトニック結晶を応用した光物性制御などの研究が行われています。
 この1年で、量子コンピュータに関する成果として、光ファイバと位相感応増幅器で構成したレーザ共振器を用いた新しい計算技術を実現させました。これは、量子ニューラルネットワークと呼ばれ、Max-cutという組合せ問題の解を探索し、従来の計算機より50倍以上の高速化を確認しました。また、アト秒領域の光技術を用いて、半導体中では最も高速の1 PHz以上の電子振動の観測に成功しました。この他に、高精度光コム技術をマイクロ波発生装置に応用することによって、市販のマイクロ波の雑音抑制が可能であることを示しました。
ナノフォトニクスセンタ
納富雅也
 ナノフォトニクスセンタ(NPC)は、ナノフォトニクス技術を駆使して、様々な機能を持つ光デバイスを大量・高密度に集積する大規模光集積技術の確立、および光情報処理の消費エネルギーの極限的な低減を目指す革新研究を行うために、2012年4月に設立され、現在、物性科学基礎研究所及び先端集積デバイス研究所の中でナノフォトニクスに関わる研究チームにより構成されています。
 本年は、抵抗を集積した超低キャパシタンスのナノ光受光器を用いて超高効率の光電変換を実証しました。また、深サブ波長プラズモニクス導波路に有効に光を導くモード変換器の実現、ナノワイヤシリコンフォトニック結晶レーザの高速変調動作に成功しました。さらに、シリコン導波路に結合した超伝導単一光子検出器、シリコン導波路に結合したフォトニック結晶レーザを実現することにも成功しました。