低励起光入力軟X線レーザ

中野 秀俊、陸 祥培、西川 正、上杉 直
量子物性研究部

 単色性、高輝度性、高い指向性を有する軟X線レーザは、X線微細加工、局所化学反応、光電子分光、X線顕微鏡、X線ホログラフィなどへの応用が期待される。従来、X線レーザ研究には高強度励起のために超大型励起レーザが必要とされ、重要な役割を果たしてきた。しかし、幅広い応用のためには、X線レーザの小型化、高繰り返し化が必要である。近年の高ピーク強度を低エネルギーで実現可能な超短パルスレーザ技術の著しい進歩に伴って、テーブルトップサイズレーザ励起による小型X線レーザ研究が活発化している。特に、超短パルスレーザ光の強力な電界で原子を直接イオン化する光電界イオン化(OFI)過程は、小型レーザによる反転分布形成に重要な手法である。我々は、フェムト秒レーザを励起光源とし、OFI法により2価窒素イオン(N2+)中に反転分布を形成し、波長45.2nmにおける軟X線増幅を僅か25mJの励起光エネルギーで実現した[1]。

 実験は、テーブルトップフェムト秒チタンサファイアレーザを使用して行った。100fs、790nmのレーザ光はMgF2ウィンドウを通過し、真空槽に導かれ、MgF2レンズ(f =400mm)により差動排気された窒素充填ガスセルに集光される。プラズマは、レーザ光の進行方向に沿い、線状に形成される。図1に1Torrに充填した窒素をエネルギー25mJのレーザパルスで励起したときの軸方向での発光スペクトルを示す。この図から、プラズマ長の拡大に伴い、2価窒素イオンのレーザ遷移であるN2+ 2s-3p遷移に伴う45.2nmの発光線が支配的となることがわかる。発光線強度のプラズマ長依存性を図2に示す。この結果から、45.2nmでの小信号利得ならびに利得長積は、それぞれ9.6cm-1、3.84と見積もられる。

図1:線状の窒素プラズマからの軸方向への軟X線発光スペクトル(L:プラズマ長)
図2:ホウ素様窒素イオン(N2+)からの発光線強度のプラズマ長依存性
[1] P.Lu, H.Nakano, T.Nishikawa, and N.Uesugi, LASERS'98 FC-8 (1998)

 

図1:線状の窒素プラズマからの軸方向への軟X線発光スペクトル(L:プラズマ長)

図2:ホウ素様窒素イオン(N2+)からの発光線強度のプラズマ長依存性


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